元麻布春男の週刊PCホットライン

Itanium 2の今後を占う




●上積みの少ないItanium 9100

MontecitoとMontvaleは、パッケージ上も変わらない

 10月31日、Intelは64bitプロセッサのItanium 2シリーズの新製品として、プロセッサー・ナンバーが9100番台の製品7種類を追加した。これらいはいずれも“Montvale”という開発コード名で呼ばれてきたもので、新たに加わった667MHzのFSBに対応した製品(プロセッサー・ナンバー末尾にMがつく)2種と、従来のプラットフォームと互換性を持つ533MHzおよび400MHzのFSBに対応した製品(同N)5種からなる。またローエンドの1製品を除き、すべてデュアルコアプロセッサとなっている。

 このMontvaleで紹介に困るのは、このFSBクロックを除くと、従来のItanium 2プロセッサ(Montecito)からのスペック的な上積みが少ないことだ。L3キャッシュ容量(最大24MB)が同じなら、最高動作クロックも1.6GHzが1.66GHzになっただけで、動作クロックを引き上げたというより、FSBクロックの引き上げに伴って動作クロックが若干上がった、という印象が否めない。

 性能面での最大の目玉であるFSBクロックの引き上げにしても、もともと667MHz動作はMontecitoで予定されていたもの。実際、発表直前にFSB 667MHzでのデモも行なわれていたが、急にキャンセルになるという経緯があった。今回のMontvaleでのFSBクロック引き上げに際しても、1本のFSBに接続可能なバスロードが3に制限されており(チップセット+CPU×2)、従来のような4ソケット構成をとることができなくなっている。FSBクロックの引き上げと、バスロードの制限で、ソケットあたりのFSB帯域は増大したから、性能面でのメリットは確かにあるわけだが、バスロードを制限して良いならMontecitoでもFSB 667MHzが実現できたのではないかとも思ってしまう。

 Montvaleで強化されたのは、コアレベルのロックステップとDBS(デマンド・ベース・スイッチング)の2点。コアレベルのロックステップというのは、2つのコアに同じ処理をさせて、その結果が同じになるかを常に比較することで、処理の信頼性を高めようという技術だ。一方のDBSは、負荷が低いときにCPUの動作クロックを落とすことで消費電力を節約しようというもので、x86プロセッサのSpeedStepに相当する技術だ。いずれもトランジスタ数的に大きなインパクトがあるものではなく、Montvaleのトランジスタ数はMontecitoとほとんど変わらない(17億トランジスタ強)とされている。

信頼性を高めるコアレベル・ロックステップ デマンド・ベース・スイッチングで消費電力を低減

 このMontvaleでも本来はMontecitoで採用される予定でありながらキャンセルされたFoxton Technology(TDPに余裕がある際、必要に応じてクロックを上げて性能を高める技術)の採用は見送られており、現行の90nmプロセスでこれ以上の動作クロックを実現することが相当に困難であることがうかがえる。実際、Itanium 2の動作クロックは、130nmプロセスの“Madison-9M”で1.6GHzに到達した後、3年にわたりほとんど引き上げられていないのである。

 この性能引き上げペースの遅さは、IA-64プロセッサの普及がなかなか軌道に乗らない大きな要因の1つだと考えられる。現在のIA-64プロセッサの位置付けは、x86系とは異なるRISCプロセッサやメインフレームの対抗であり、x86互換はそれほど大きな問題ではない(互換であれば、それに越したことはないだろうが)。問題は、高い価格に見合う性能が得られないことだ。価格性能比では、量産規模が格段に大きなXeonにかなわなくても、絶対性能でXeonに明確な差をつけられなくては、どんなに信頼性が高かろうとやはり苦しい。世界一高性能だが世界一高価なプロセッサになって良いから、もっと性能が必要だろう。そうでなくては、IBMの「POWER6」に対抗することは難しい。

●Tukwilaが握るItanium 2の今後

 この性能不足に対するIntelの回答として現在開発が進められているのが、開発コード名を“Tukwila”というクアッドコアプロセッサだ。Tukwilaではコア数が倍になるだけでなく、プロセッサの外部インターコネクトにx86系のNehalemと同じQuickPath Interconnect(QPI)を採用する。これはTukwilaが既存のプラットフォームと完全に互換性を絶つ形で進化することを意味すると同時に、Nehalem同様、Itanium 2もメモリコントローラ(現時点では4チャネルのFB-DIMMインターフェイス)を内蔵するアーキテクチャへ移行することを意味している。

 QPIを採用するからといってTukwilaが、Xeonプロセッサとソケットレベルの互換性を持つようになるとは考えられない(少なくとも当初は)が、チップセットは共通化することが可能になる。現在Intelには、FSB 533MHzや667MHzに対応した、自社製のチップセットが存在しない。現在のItanium 2採用メーカーは、チップセット開発能力を持つメインフレームベンダで占められている。むしろ、メインフレーム級サーバーの開発経験ではIntelを上回るとも考えられ、主要なメーカーはItanium 2用チップセットを自社開発している。

 どうやらIntelは、QPIを採用するTukwilaで、上位のXeonプロセッサ(Xeon MP)とのチップセット共通化を図り、自社製のプラットフォームを展開したい意向のようだ。それにより、Itanium立ち上げ期には存在したホワイトボックス系サーバー市場に再挑戦したいのだろう。これはうまくいけばItanium 2プロセッサの出荷量を増やせる反面、メインフレームやRISCサーバーの置き換えという現在の立ち位置を曖昧にするリスクもはらんでいる。

 このTukwilaの存在は、Itanium 2プロセッサの将来に光を与えるものである一方、今回発表されたMontvaleには影を与えた可能性がある。クアッドコア化とメモリコントローラの内蔵というアーキテクチャ面でのチャレンジに加え、同時にプラットフォーム整備を行なわねばならないTukwilaは、準備に相当の時間を要すると考えられる。今回の発表に際して来日したIntelデジタル・エンタープライズ事業本部のサーバー・プラットフォーム事業部長であるカーク・スカウゲン氏は、Tukwilaのウェハを披露したが、ここに至るために開発リソースの多くはMontvaleよりTukwilaに割かれたのではないだろうか。Tukwilaの存在が、MontvaleをMontecitoのバグフィックス版のようにしてしまった、とも考えられる。

 このTukwilaの性能だが、スカウゲン事業部長は、Montvaleの約2倍だと述べている。FSBクロックの引き上げなどで、10%前後の性能向上しか得られなかったMontvaleに比べれば立派な性能見通しだ。が、コアの数が倍の4つになることを考えると、動作クロックやL3キャッシュ(キャッシュのアーキテクチャは一切明らかにされていない)容量などの上積み量は、あまり大きくないとも予想される。スカウゲン事業部長はTukwilaを、Intelで初めて20億トランジスタを越えるプロセッサだと紹介したが、Montecito/Montvaleで17億トランジスタを突破していることを考えれば、こちらの上積み量も控えめだ。Tukwilaで製造プロセスが90nmから65nmへ移行するにもかかわらず、トランジスタ数の増加を抑えたというのは、これまでクロックが上がらずに苦労した反省からではないかとも思うのだが、まだその真意はつかめない。

Tukwilaの300mmウェハを持つIntelのカーク・スカウゲン事業部長 Tukwilaの概要

 このTukwila以後も、IntelはPoulson、KittsonとItanium 2の開発を進めていくという。x86系のプロセッサは、製造プロセスのシュリンク(Tick)とマイクロアーキテクチャの更新(Tock)を交互に行なうTick-Tockモデルだとされるのに対し、IA-64は製造プロセスとマイクロアーキテクチャの更新を同時進行させるTock-Tockモデルで、世代毎に2倍の性能向上を実現していくとスカウゲン事業部長は述べた。が、これまでもIA-64プロセッサは、開発スケジュールの遅延やキャンセルが多発し、それが性能面での伸びを欠く理由となってきた。Tukwila以降、本当に2倍の伸びを実現できるのか、開発スケジュールに遅延はないのか、実際に製品が登場するまで何とも言えない、というのが筆者の正直なところだ。

 そうでなくともIA-64プロセッサは批判にさらされることが多い。高価でx86との互換性を持たないIA-64は、多くの人に馴染みがないだけでなく、数量が出ないというハイエンド製品では避けられない宿命を背負う。半導体ビジネスは数が出てナンボだから、ビジネスの効率は決して良くない。たとえIA-64事業が赤字ではないにしても(Intelは製品毎の収支を発表しないため実際は不明)、より大量の販売が見込め高い収益が期待できるx86プロセッサ事業に経営資源を集中させるべきだ、という株主からのプレッシャーを常に受けることになる。これはIntelにとっても、IA-64にとっても、それを採用するサーバーベンダにとっても不幸なことだ。

 この状況から逃れるおそらく唯一の方法は、IA-64事業を社外へ分離することだろう。USB顕微鏡やキーボードなどのガジェット事業、XScale、NOR型フラッシュメモリなど、Intelが本体から分離した事業は少なくない。Intelにはx86プロセッサ事業という、あまりにも大きな存在があるため、かえってその影に入るその他の事業が育ちにくいのである。IA-64がIntelのメインストリームにならないのであれば、分離を考えても良いのではないかと思う。

 幸い、IA-64には、それを利用するOEMの大半が参加するItanium Solutions Allianceがある。このアライアンスを母体に新しく事業会社を起こし、そこにIA-64の設計や開発を分離するのはどうだろう。知的財産権のことを考えればIntelの出資比率は51%以上にならざるを得ないだろうし、製造もIntelに委託するしかないだろうが、社外に出ることで日当たりは良くなるハズだ。IA-64を採用するベンダも、いつIntelが株主からの圧力に負けて止めると言い出さないか、ハラハラしないで済むだろう。ニュートラルに近いポジションになることで、OEMも増えるかもしれない。Tukwilaが完成し、QPIベースのプラットフォームが確立したら、タイミング的には頃合いだと思うのだが。

□関連記事
【10月31日】インテル、コアレベルのエラー検出機能を搭載した「Itanium 9100」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1031/intel.htm
【6月27日】インテル、vProとItanium 2のロードマップを解説
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0627/intel.htm
【2006年7月12日】【元麻布】ようやく登場するデュアルコアItanium
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0712/hot436.htm

バックナンバー

(2007年11月13日)

[Reported by 元麻布春男]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.