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命名権売却 市が検討

2007年11月10日

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横浜市により命名権売却の話が進められている横浜開港資料館=横浜市中区で

  ペリー上陸図など横浜関連の資料約25万点を収蔵する横浜市中区の横浜開港資料館について、市が命名権(ネーミングライツ)の売却を検討していることが分かった。全国的にスポーツ施設やホールに導入する例は多いが、寄贈資料が多い公立博物館の命名権売却は珍しいという。寄贈者からは「一企業の宣伝のために提供したわけではない。資料の引き揚げも考えたい」と批判の声が上がっている。

(佐藤善一)

  開港資料館に加え、横浜市は市歴史博物館についても命名権の売却を検討している。

  今回の命名権売却は10月、市教委文化財課を通して財源課から両館を管理運営する財団法人・横浜市ふるさと歴史財団に打診があった。導入の可否を問うほか、「導入できない」と回答した場合、命名権に代わる「市費負担削減案」の提示を求められた。

  これを受け、財団側は利用者にアンケートを実施。導入反対の回答が約8割に上ったことや、資料館は寄贈、寄託資料が多く影響が大きいことなどを所管の文化財課に報告した。しかし、文化財課、財源課は現在も「ネーミングライツ導入について前向きに検討している」という姿勢を崩していないという。市は経費削減のため、ネーミングライツ導入を積極的に進めている。

  市はこれまで、資料の寄贈、寄託者に対し、命名権の説明は一切していない。このため財団の職員有志が今月初め、寄贈者約20人に命名権導入の可否や今後の対応について意見を聞いた。

  その結果、「どちらとも言えない」と答えた1人を除き、残り全員が反対だった。「公的資料館の公平性が損なわれてしまう」「発想が安易すぎる」などと厳しい意見が相次ぎ、ほとんどが資料の返還を求めたり、展示や閲覧公開の停止、企業名を資料につけないなどを求めたりしていた。

  港北区関連の資料を多数寄贈している飯田助知さん(69)は「様々な市民や団体の協力で成り立ってきた資料館の活動が台無しだ。未来永劫続く歴史資料は一企業のモノではない。寄贈者に説明もなく、大人の常識では考えられない行為だ」と怒りを見せた。

  ふるさと歴史財団の高村直助理事長は「個人的意見だが、スポーツ施設とは性格が違い、資料館は公共性は高い。資料を引き揚げると言われたらどうなってしまうのか、今後も利用者の意見も聞きたい」と話す。資料館職員も「資料館は市民の協力で成り立っている。信頼がすべてだ」と不安を漏らしていた。

  資料館には江戸時代後期から関東大震災のころまでの横浜の資料があり、横浜関連では全国最大規模。約25万点のうち約半分は市民からの寄贈、寄託が占めるという。

  日本女子大学文学部の井川克彦教授(日本近代史)は「寄贈資料の中には海外の外交文書も含まれている。市の独断で決めていい話ではない。文化事業に一企業の利益を安直に載せてしまうのは問題だ。資料館が築き上げてきたブランドイメージが壊されてしまう」と指摘している。

  ◇キーワード◇ ネーミングライツ 施設などにスポンサー企業の企業名や製品名などのブランド名を付けることのできる権利を指す。70年代ごろにアメリカで生まれ、00年代になって公共施設を中心に国内でも広まった。味の素スタジアム(東京スタジアム)や日産スタジアム(横浜国際総合競技場)などが有名。横浜市は三ツ沢公園球技場を来春から「ニッパツ三ツ沢球技場」にするほか、磯子区の「横浜こども科学館」についても命名権の売却先を募集している。

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