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  ▼ 記者の視点
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高水準の薬価が新たなハードルに
保険適用でも尻込みする患者
2007.11.9

 今月初めに開かれた田辺三菱製薬の2008年度3月期中間業績の発表記者会見は、メディアの関心はフィブリノゲン問題にスポットが当たった印象だった。しかし、数少ない業績関連の質疑の中で、ジェネリック医薬品事業への参入意欲を聞かれた同社トップの答えが印象に残った。

 答えは、「自社が発売している抗リウマチ薬のレミケード(インフリキシマブ)は大変有効な薬で、患者さんにも喜ばれているが、一部の患者さんには、(主治医が治療計画を伝えたあとに)お断りになる方がいる。残念だが、やはり薬価の高さがネックになる患者さんがいる。国際的に求められている新薬の開発も大切だが、医薬品企業としては、安全で安価な医薬品を供給していくことも責務ではないかと考えている」と述べたのである。
 レミケードは、周知のように抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤、つまり生物学的製剤である。関節リウマチの患者に著効を示し、患者のQOLが大きく改善する。しかし、問題は100mg1瓶が10万円を超える薬価だ。

◎やはり重い年間50万円の自己負担

 関節リウマチ治療の専門医に生物学的製剤の登場で何が変わったのかを取材する機会があった。課題は何かと質問したとき、その医師は即座に「価格だ」と答えた。

 苦り切った表情で、「現状では、やはり薬価が高いことが最も大きな問題だと指摘せざるを得ない。特にわれわれとしては、早期の患者さんにも適用を拡大してほしいと考えているが、行政的な支援策がない状況では、3割負担で年間の自己負担は40万〜50万円ということになる」という。

 それでも、「患者には将来部分も含めた治療総費用という考え方ができれば、全体として費用負担が少なくなることも説明、説得をする」ものの、かなり多くの患者がこの価格の前に治療を尻込みすることを語ってくれた。聞く側にもつらい話だが、実は最近、各科の専門医から似たような話を聞かされることが増えている。

 7月末に承認された悪性腫瘍の骨転移除痛を効能とする「メタストロン注」は、治療用で使われるアイソトープ製剤としては2番目の製剤で、すでに世界41カ国で発売されている。難しいとされる骨転移疼痛緩和に有効とされ、腫瘍専門医には期待の高い製品だ。しかし、この薬価も30万円を超える水準で設定された。米国では約40万円、フランスでは20万円程度であり、欧米の中間に価格が設定されている。

◎ 社会的に有用だという主張を

 がんに関しては、腎細胞がんの効能で、分子標的薬の1つが近く承認される見通しだ。これも腎がんを扱う泌尿器科医には、福音として待ち望む声が大きいが、それに比例して「どの患者さんにも使えるのか」という不安も大きくなり始めている。不安の根源は、これも薬価である。

 医師たちの薬物治療の進歩に対する期待が、治療の現場では価格によって裏切られるケースが増えている。一方で、医薬品の価格に関する問題は複雑だ。高コストで開発された製品が、それに見合うリターンを求めるのは不合理ではない。しかし、多くの患者がその効果を適正に享受することも、また医療に求められている使命だ。有効な治療を前に断念する患者の無念、それを見守るしかできない医療者、製薬企業の無念、そうした無念を晴らすには何をしたらよいのだろうか。

 率直にいって、医療費のパイを広げるしか方法はないのではないか。有効な治療法が保険適用となっても使えない―。このことは医療が果たす社会的役割の否定ではないだろうか。社会に有用であるというエビデンスを、政治に伝える手法の検討時期が来たのではないだろうか。(大西 一幸)



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