埼玉医大総合医療センターが、時間外の軽症患者に特別徴収金を負担してもらう背景には、過酷な勤務を嫌う医師が病院を辞める「医療の危機」や「医師不足」がある。同センターは受診者数を減らし体制を守る苦肉の策と強調するが、素人が軽症と重症を見極めるのは難しく、混乱も予想される。
同センターが診療した時間外救急患者は、昨年、約4万人に達した。仕事などで昼間受診できない人たちが夜間に訪れる「コンビニ化」現象なども進み、受診者が急増しているとみられる。4万人のうち、入院が必要な重症患者は約2800人(約7%)だった。
救急対応のため医師は月に5~7回の泊まり勤務をこなし、一晩で40~60人を診療。続けて眠れるのは2時間程度という。同センター救急委員会委員長、田村正徳教授(小児科)は「重症患者を助けて外来に戻ると、大勢の軽症患者に遅いと責められる。それで若手医師は『辞めて開業したい』と言い出す。患者が増えれば救急病院の役目を返上せざるを得ない。問題はあるが、追いつめられていることを理解してほしい」と訴える。
だが患者には、軽症か重症か自己診断するのは難しい。しかも、徴収するかどうかの診断基準も公開されない見通しだ。基準に沿ってうその病状を申告されたら困るからだという。経済的な苦しさから受診を控えて処置が遅れる可能性もあり、議論を呼びそうだ。【高木昭午、稲田佳代】
毎日新聞 2007年11月11日 東京朝刊