◇戦争文学「裸者と死者」
【ニューヨーク共同】AP通信によると、太平洋戦争の従軍体験を書いたベストセラー小説「裸者と死者」で知られた米作家、ノーマン・メイラー氏が10日、腎不全のため、ニューヨーク市内の病院で死去した。84歳だった。
◇
ユダヤ移民の子として米ニュージャージー州に生まれ、ニューヨークで育った。ハーバード大在学中から現代アメリカ文学に親しみ、ドス・パソス、スタインベックらに傾倒した。44年に徴兵され、太平洋戦線を転戦。米占領軍の一員として日本にも滞在した。日本軍と戦ったフィリピンでの体験をもとに戦場の人間像と権力構造を赤裸々に描いた「裸者と死者」(48年)は戦後に書かれた戦争文学の最高傑作の一つといわれる。
雑誌「ビレッジ・ボイス」の創刊にかかわった。ベトナム戦争批判をはじめ戦争や政治、性など現代の社会問題に取り組み、ニュージャーナリズムの代表的作家の一人となった。69年、ベトナム反戦運動に取材した「夜の軍隊」でピュリツァー賞と全米図書賞を、80年には「死刑執行人の歌」で2度目のピュリツァー賞を受賞した。
2001年の同時多発テロの後、米国内での愛国心の高揚について「9月11日がアメリカ人の心理を変えた。(米国の自由は)失われた」などと批判し、話題になった。今年発表した「キャッスル・イン・ザ・フォレスト」では若きヒトラーを題材にした。
◇衝撃が傑作に結実--アメリカ文学に詳しい文芸評論家、佐伯彰一さんの話
メイラーは青春時代に戦争と出合いショックを受け、その体験が傑作「裸者と死者」に結実した。大きな才能があるのはまぎれもなかったが、その後の軌跡をたどると、反戦運動など米国の現代史にコミットしすぎた印象を受けます。
毎日新聞 2007年11月11日 東京朝刊