社説

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社説:混合診療 国の説明は患者に届いてない

 健康保険が使える診療(保険診療)と保険外の診療(自由診療)を併用する混合診療を受けたとき、患者が保険診療分も含めて全額負担しなければならない制度の是非が問われた訴訟で、東京地裁は原告のがん患者に保険給付を受ける権利があることを認め国側敗訴の判決を言い渡した。

 混合診療禁止を違法と断じた初の司法判断によって、制度のあり方を再検討する機会が到来した。国民皆保険制度にもからむ問題である。国は論点を整理し国民に向け混合診療問題を丁寧に説明しなければならない。

 原告の患者は、がん治療のため主治医の勧めで6年前から、保険適用となる療法と、適用外の療法を併用する混合診療を受けた。現行の保険診療では患者負担は原則3割だが、自由診療を併用すると、保険診療分も含めてすべてが患者負担となる。原告によると、混合診療で保険適用分の自己負担額が月6万~7万円から20万円に膨らんだという。

 原告は弁護士の助けもなしに独力で勝訴をかち取った。判決は難病を患っている人を少ない費用で救済できる道筋を示した「温情」判決には違いない。しかし、個別ケースの結論を政策一般論まで広げると別な問題も生じてくる。

 国が混合診療を認めてこなかったのは、現在の医療保険制度の根幹を崩す恐れがあるからだという。国民皆保険とは、保険証1枚あればだれもがどこでも同じ治療を受けられる制度だ。安全と公平が原則である。

 しかし、無制限に混合診療を認めると、安全かどうかわからない診療が横行し、患者の経済状態によって受けられる医療に差が出てくる可能性を否定できない。

 一方で、混合診療の全面解禁を求める声も少なくない。わらにもすがりたい患者は承認されていない薬の使用を本人の判断で選べる、オーダーメードの医療システムを望んでいる。

 厚生労働省の主張は舌足らずである。混合診療禁止の理由について、なんとしても国民を納得させるという熱意と努力が感じられなかった。混合診療を受けると保険適用の医療も全額負担となる仕組みに至っては、更にわからない。

 厚労省は「複数の医療行為は不可分で、ケースごとに線引きするのは難しい」というが、判決は「保険を適用できるかどうかは個別の診療行為ごとに判断すべきで、自由診療を併用したからといって本来保険が使える診療の分まで自己負担になるという解釈はできない」と指摘した。厚労省の明快な反論を聞きたい。

 仮に国が皆保険制度を維持するため混合診療の原則禁止を続けるならば、並行して行うべきことがある。一つは、混合診療で例外的に保険適用を認められる治療や投薬の範囲を広げること。二つ目は、諸外国に比べ承認が遅いといわれる新薬などを早期承認し、保険適用対象を増やすことだ。薬の副作用検査など安全性の確保はいうまでもない。それは患者の切実な声に応える道でもある。

毎日新聞 2007年11月9日 東京朝刊

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