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プーチンのロシア:第2部・地方の現実/1(その1) カフカス、激化する市民攻撃

 ◇銃口、見えぬ敵--紛争後、不安去らず

 見えない敵との戦いがカフカス地方で続いている。ロシア南部のチェチェン共和国に隣接するイングーシ共和国で7月以降、武装集団による警察や一般住民への攻撃が活発化し、その数はこれまでに40件を超えた。

 7月16日、ロシア人女性教師の自宅が襲撃を受け、子供2人を含む3人が射殺された。2日後、この家族の葬儀が行われた墓地で仕掛け爆弾が爆発、参列した住民11人が負傷した。8月30日には別のロシア人女性教師と夫、息子2人が自宅で射殺された。このほか、朝鮮系やロマ人(ジプシー)の住民も殺害された。標的となったのはいずれも非カフカス系だ。

 ロシア人の元教師、アントニーナ・ハシエワさん(50)は相次ぐ事件に「正直怖い」という。だが、逃げるわけにはいかない。居住地区の副地区長を務め、チェチェン紛争以来、カフカス外に逃げていたロシア人の帰還活動に従事しているからだ。紛争が沈静化した04年以降、イングーシに520人のロシア人が戻り、合わせて約1100人にまで増えたという。

 ロシア正教文化のロシア人に対し、イングーシ人はチェチェン人と同じイスラム教徒だ。それでも「イングーシほど私たちのようなよそ者を心から受け入れてくれる土地は他にない」とハシエワさん。地区内を歩いて回ると、かつて小学校で教えた地元の若者らが集まってきた。その一人で大学生のルスタムさん(19)はハシエワさんを「家族の一員」と話した。

 「攻撃は外部から来ている」。イングーシのジャジコフ大統領は9月末の会見で語った。ただ犯行グループについては、地域の不安定化を狙う「ロシアの敵」というだけだった。あるイングーシ政府関係者は「同じロシア南部のソチでの冬季五輪開催(14年)を苦々しく思う西側諸国が、カフカスの危険性を印象付けるために仕組んだ」との可能性を真顔で話した。「チェチェンは既に正常化された」と主張するプーチン政権としては、最近の事件でチェチェン独立派に非難の矛先を向けにくい事情がある。

 中心都市ナズランなどでは、モスクワの豊かな資金が流入し、建築ブームに沸く。一方、チェチェンにつながる道路では、ロシア内務省軍兵士を乗せた軍用トラックの車列が行き来する。最前列を守る装甲車の上では、銃を構えた狙撃兵が目を光らせていた。

 ナズランの市場で果物を売って日銭を稼ぐ高齢のイングーシ人女性は、「私たちはここで生きるしかない。逃げられないのです」と話した。【ナズラン(ロシア南部)で杉尾直哉】

     ◇

 秩序回復を御旗(みはた)に中央集権化を進めてきたプーチン政権。その強権支配体制を底辺で支える地方の現実を報告する。=つづく

毎日新聞 2007年11月6日 東京朝刊

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