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記者の視点
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問題なのは記事の「書き方」
民主党の人事案事前報道規制
2007.11.7
2008年度診療報酬改定の方向をうらなう医療経済実態調査(実調)が報告された10月26日の中央社会保険医療協議会。日本医師会の委員は会合の冒頭、この実調の一部が事前に一部日刊紙で報道されたことを取り上げ、強く抗議した。報道の主は残念ながら本紙ではない。
事前の情報漏れに対し、この委員は「諮問機関である中医協の存在にかかわる重要な問題」と会場に訴えた。中医協の格式が下がることをひどく気にしていたようだったが、記者も努力して情報を取っている。
小沢党首の辞任表明で混迷を深めている参院第一党の民主党も、「情報漏れ」にはひどく神経をとがらせているようだ。
国会で同意することが必要な政府審議会委員の人選案が事前に報道された場合には、拒否する考えを固めたという。私の知る限り、こんな話は聞いたことがない。
自民党は情報源、つまりニュースソースが特定されない限り、拒否しないでほしいと要請したようだが、2日に政府・与党サイドが示した人事案は、事前に報道された地方分権改革推進委員の1人が差し替えられていた。“前例”をつくってしまった罪は大きい。
◎ “小粒”のスクープ争い
このところの新聞報道は確かに、時間をかけてだれも知らない事実を新たに掘り起こすよりも、手っ取り早く記事になる発表前の資料を直前に入手し、当日や1日前に報じる“小粒”のスクープ争いにしのぎを削っているところがある。むろん、本紙も含めてである。
ただ、読者にとって発表当日になれば公になる内容を1日早く知ることにどれだけのメリットがあるのか、という意見はあるだろう。それに部数だって増えるとは限らない。
けれど、「知る権利にこたえる」という報道機関の使命を持ち出すまでもなく、読者に1日も早く情報を伝える努力をするのは当然だ。むろん、記者の「功名心」だって否定しない。実際、この手の情報をもらうには、日ごろの取材活動がものをいう。
地方にお住まいの方はお気付きかもしれないが、都道府県を代表するいわゆる「県紙」では、県庁や県警の人事はたいてい1日前に報道される。他紙と同時掲載、ましてや抜かれることなどもってのほかである。これができない記者は、無能のレッテルを張られる。
しかし一方で、ニュースソースの懐に入り過ぎると大局や民意を見失いかねない。記者は常にそのバランス感覚が問われているのである。
◎ 「あたかも決まったように」
今回の民主党の姿勢を「報道規制だ」と一笑に付すことは簡単だ。毎日新聞の論説室氏は、人事案の拒否を決めた民主党幹部を「発言が報道規制につながるという認識もなく、大事なのは自分のメンツ」「そんな人は一生、野党をやっていてください」と切り捨てている。
趣旨には賛同するが、個人的には記事の「書き方」にも問題があるのではないか、という気がする。事前報道された記事に反発する関係者が口をそろえていうのは「あたかも決まったように書かれる」ということだ。
「政府・与党は〜の方針を固めた」などという記事の書き出しは今も多用されているが、ニュースソースが明示されず、読者は内容を疑う余地が与えられない。反論したくてもできないのである。こうした不満の積み重ねが今回の民主党の対応につながったのではないか。
政府・与党サイドの人事案を入手したのなら、あくまでも案の段階であることや、決定には国会(民主党)の了承が必要であるとの一文をきちんと加えればいい。無理に記事を大きく見せる必要はない。
つい先日も「財務省は2008年度の診療報酬を引き下げる方針を固めた」などという趣旨の通信社の配信記事があった。ただ、最終的にそうなったとしても現段階では財務省がそうしたいだけの話である。衆参のねじれを機に、報道側も改めるべき点は改めるべきだろう。(笹井 貴光)
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