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2007-04-15 ノウハウ直接知財 与太理論の流通 その3

[][]ノウハウ直接知財 与太理論の流通 その3

与太理論駆逐共同体

今日の日本では「ネット世論」というものが形成されており、これらの一部は与太理論駆逐共同体として機能している。機能はおおまかに分けて三つになる。「与太理論そのものの論破」「与太理論発信者の与信情報の発信」「与太理論に代わる理論の発信もしくは発信者への与信」である。


与太理論そのものの論破

与太理論は破綻している理論なので論破は簡単に思えるが、中には簡単に論破できない与太理論も存在する。一つ目はニュートン力学のように相当精密に作られている与太理論である。そもそも本当に与太理論なのかどうかも事前には分からないために、論破の努力に手をつけることからして行われないことも多い。当然、これを論破するためには相当な知識と努力が必要であり、現時点での量子論などはたぶん与太理論なのだが誰も論破に成功していない。

二つ目は与太理論を論破するために悪魔の証明が必要とされる場合が多いことだ。マクロ経済学などは多分に与太理論ではあるが、その理論を証明もしくは論破するために必要とされる対照実験が事実上不可能なために、与太か真実かが分からない状態に陥っている。もちろん単純な悪魔の証明の場合(UFOは実在する!など)は、論破に悪魔の証明を要求する側が与太であると決めつけてしまうことが信用醸成の常識である。


与太理論発信者の与信情報の発信

すでに述べているが、与太理論発信者は大概の場合に与信情報がブラックのため、身元を偽装する傾向にある。もしもこの身元が偽装されたものであると受信者が知ったならば、彼は身元を偽装した発信者を信じることができなくなるだろう。このように身元を偽装すること自体が与信を損ねるし、元々の身元での与信情報によってはさらに与信を損ねることになるだろう。

しかし身元偽装を見破るのは簡単ではない。社会には本当に多くの人が生活していて、それを逐一確認することなどは一介の受信者には荷が重過ぎる。しかし与太理論駆逐共同体ならば多くのマンパワーと幸運を身元確認につぎ込むことができるために、身元偽装の判明が比較的容易になる。

ただし、今までどれだけの与太理論を発信してきた人間であっても、今回だけは正しいことを言っている可能性は常にあるために、過去の与信情報だけで発信された情報の真偽を判断してはいけない。


与太理論に代わる理論の発信もしくは発信者への与信

これがなければ受信者は藁をもすがる思いで与太理論に頼ってしまうかもしれない。そして与太理論にすがった受信者は、その自分を正当化するために与太理論信者になることを選択するかもしれない。

常に正しい理論を提供できるとは限らないのだが、与太理論駆逐を効率的なものにするためには正しい理論の収集にも大きな労力を割く必要があるだろう。


与太理論駆逐の報酬に関する問題点

第一の問題点は与太理論駆逐共同体はその構成員に十分な利益を保証できないことだ。多くの場合、構成員は共同体への貢献に対して直接の報酬を得ることができない。この共同体は緩やかな共同体であり利益の再分配を行う機関など存在しない。構成員は権威や権力という報酬は多少得ることができるが、金銭を得ることは非常に難しい。

また、与太理論駆逐共同体は与太理論共同体が撒き散らす負の効用を減少させることで利益を得るのだが、与太理論駆逐共同体が戦果を収めると、つまり与太理論共同体が撒き散らす負の効用が減ると、与太理論共同体構成員が新たな与太理論を駆逐する限界利益が減少する。与太理論共同体の持つ社会での権力が大きいときは、彼らの妨害力が強く与太理論駆逐コストは高いが、駆逐できたときの利益は大きい。逆に与太理論が駆逐されていくと、妨害されるコストは低くなるが、影響力の小さい与太理論の穴を見つけるのは困難だし、弱々しい与太理論を駆逐しても小さな利益にしかならない。

この問題点の解消案の一つに、政府が与太理論駆逐共同体を運営するというものがある。このように強固な共同体を形成すると直接報酬分配機能が高まり、構成員は応分の利益が小さい状況でも活発な行動を継続する。しかし、この案はよほどの緊急事態でなければ採用してはいけない。

政府がこのように与太理論駆逐を行うということは言論の統制に直結する。政府が自らに不都合な意見を発表する主体を魔女認定するという欲求からいつまでも自由でいられるわけがない。

また与太理論の駆逐に成功して敵が弱くなると、往々にして共同体は自己保存本能が働き始める。自ら敵を作り出してそれを攻撃することが目的にすりかわるのだ。これは与太理論共同体が与太理論駆逐共同体を攻撃していたことそのままだ。緩やかな共同体ではここまでの自己保存本能が働かず、目的を達成したら共同体を解散することが可能だ。しかし強固な共同体になると、共同体が存続することで利益をあげる構成員がいるために自己保存本能のリビドーの火を消すことは難しいだろう。

次の案が、与太理論共同体に苦しめられている主体がその与太理論を駆逐してくれる構成員に直接報酬を支払う方法だ。これは一見妙案に聞こえる。しかし実体は私刑にすぎない。依頼者が駆逐対象に対して個人的な怨恨を抱いているだけかもしれないからだ。また構成員が報酬目的で過剰攻撃を行う危険もある。応分の報酬で構成員が報酬を得ていた場合は共同体が利益を得ることが絶対の条件だったが、このときには共同体が損失を被っても構成員が個人的に利益を得るならば実行されてしまうのだ。


与太理論駆逐の過剰攻撃に関する問題点

過剰攻撃は、報酬問題とは別に与太理論駆逐の問題点の一つだ。

与太理論駆逐のステップに「与太理論発信者の与信情報の発信」があるが、これを行うにあたって言論犯罪が行われるリスクが高い。リスクが高いというのはナイーブな表現だ。実際には数多くの名誉毀損・偽計業務妨害・差別発言が発生している。もちろんこれと同じ凶器を与太理論共同体は与太理論駆逐共同体に行使しているのだが、だからといって与太理論駆逐共同体がこの凶器の使用を正当化していいわけではない。

しかし与信情報の発信はつねに与太理論発信者の信用を傷つける。この凶器はどうしても必要な武器なのだ。そしてどこからが過剰攻撃になるのかの判定が難しい。少しの攻撃なのに過剰攻撃だと非難されればエージェントは萎縮するし、与太理論発信者は図に乗るだろう。しかし本当に過剰攻撃だとしたら人権問題だ。

健全な与太理論駆逐共同体の構成員には適度な攻撃レベルを維持するフィードバックが行われる。あるエージェントの攻撃が足りないと感じた構成員は自らがエージェントとなって攻撃を継続するだろう。しかし過剰攻撃だと感じた構成員は逆にエージェントを非難する行動を起こす。このフィードバックにより過剰攻撃問題は過熱せずにすむが、短期的には大きな問題を引き起こす可能性はつねに存在する。

ただし与太理論共同体にはこのフィードバック機能は存在しない。彼らにとっては共同体外部の人間の人権は利益の対象ではないからだ。より強く敵を非難した人間が賞賛される。その敵が与太理論駆逐共同体だったときは反撃は限定されたものになるのだが、別の与太理論共同体が敵になった場合は最悪の状況が発生する。一方から攻撃されたもう一方は、その攻撃の被害を払拭するためにより強力な攻撃を最初の共同体に向けるだろう。そしてそれを受けた共同体はさらに強力な攻撃を準備することになる。これはフィードバックフィードバックだがポジティブフィードバックというもので*1、連鎖反応はいつしか言論犯罪の域を超え暴力事件に発展する。

しかしいかなるときでも健全な共同体などは存在しない。与太理論駆逐共同体もしばしば健全な域を踏み出し、過剰攻撃を賞賛するような事態に陥るだろう。この問題は社会に存在する多くの悲劇と同様に不可避な問題だ。

*1:日本語で一般的に使われるフィードバックネガティブフィードバックであり、これは反応を抑制する方向に力が働く。ある温度を超えるとスイッチが切れるサーモスタットが典型例。逆にポジティブフィードバックは反応がさらに大きな反応を生み出すもので、最初は小さなタバコの火が少しずつ大きな炎に育っていく山火事などが典型例

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