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東京・世田谷区の住民票訴訟:事実婚夫婦、逆転敗訴 非嫡出子拒否は「個人的な信条」

 ◇東京高裁、認めず

 出生届が受理されなかった女児と両親が東京都世田谷区に住民票の作成を求めた訴訟で、東京高裁は5日、原告勝訴の1審判決を取り消し、訴えを退けた。藤村啓裁判長は「出生届を出すと父母や子が重大な不利益を被り、社会通念上、届け出を期待できない場合に限って住民票を作成すべきだ」という判断基準を示し、今回のケースについて「両親の個人的信条で届け出を怠っているだけで、例外的に作成を認める場合に当たらない」と述べた。

 訴えていたのは、介護福祉士、菅原和之さん(42)夫妻と娘(2)。婚姻届を出していない事実婚の菅原さん夫妻は、娘を「嫡出でない子」として届け出ることを拒んだため、区は出生届を不受理とし、戸籍が作成されていない。夫妻は、区に住民票作成を求めたが、出生届不受理を理由に受け入れられなかった。

 高裁判決は、住民基本台帳法が「出生届受理により住民票を作成する」と定めていることを根拠に、無戸籍の子に裁量で住民票を作成するのは極めて例外的な場合に限られると指摘した。その上で、民法は法律婚主義を採用しており、嫡出子と非嫡出子を分けるのは合理的理由のない差別とはいえないとして、菅原さんのケースは住民票を作成すべき場合には当たらないと結論付けた。

 1審・東京地裁は5月、「幼稚園入園の申請など日常生活の不利益は見過ごせず、将来的に重大な問題が起こる」と区の対応を違法と認め、住民票作成を命じる初判断を示した。しかし高裁は「選挙権の不利益は現実化しておらず、その他の行政サービスは手続きが煩雑としても住民登録者と同様の扱いがされている場合が多い」と述べ、1審とは逆に区の対応を適法と判断した。

 菅原さんは「残念極まりない。1回の口頭弁論だけで1審を覆したのも許されない。嫡出、非嫡出の区別は国連から批判されており、個人的信条の一言で片づけられるものでない」と話し、上告する意向を明らかにした。【北村和巳】

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 ■解説

 ◇「例外」を極めて限定

 無戸籍の子に住民票を作成すべきケースを「出生届を出すと父母や子が重大な不利益を被る場合」と極めて限定した東京高裁判決は、今後の市区町村の対応に影響を与えそうだ。ただ、「離婚後300日以内に誕生した子は前夫の子」とする民法772条の規定を巡り無戸籍となった子については、この条件に該当する余地が残っている。

 民法772条問題で出生届のない女児に住民票を作成した東京都足立区などは、自治体独自の判断で無戸籍の子に住民票を作成してきた。高裁判決は、出生届を受理しない場合に住民票を作成する市区町村の裁量を原則として認めない一方で、作成した自治体には「法の枠内で独自に行政を行った結果」と追認した。

 住民票がない子でも行政サービスに差をつけない考え方が大勢だが、手続きは煩雑で手間もかかる。判決は事実婚夫妻の主張を認めず、「仮に子に不利益があっても父母の信条によるもの。無戸籍状態が健全な成長に資するか疑問」とまで述べた。多様な家族関係が社会的に容認されつつある中、判決は議論を呼びそうだ。【北村和巳】

毎日新聞 2007年11月6日 東京朝刊

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