皆様、明けましておめでとうございます。2007年の年頭にあたり、新年のご挨拶を申し上げます。
品格ある強さに感動
世界の激しい変化がいぜんとして続き、どこに向かうのかも定かではありません。多くの人々が懸念することは、次々と顕在化してくる“社会の危うさ”ではないでしょうか。日本では、格差、いじめ、等のさまざまな危うさが社会問題となってきました。しかし、この深刻な状況を幾分でも和らげたのは、スポーツ選手の晴れの舞台における感動的な活躍です。WBCでの王ジャパン、トリノ五輪での荒川静香選手、・・・、その強さに惜しみない喝采が送られました。ところが、こうした強さとは幾分違った感動を与えた二人のヒーローが現れたことも、昨年の特長と言えましょう。
一人は、夏の甲子園で大活躍した斉藤祐樹投手です。爽やかなスマイルだけではなく、高校生らしからぬ「品格」を感じさせた仕草に、一躍「ハンカチ王子」の誕生となりました。もう一人は、福岡国際マラソンで優勝したハイレ・ゲブレシラシエ選手です。アトランタ、シドニーの両オリンピックで1万メートルの金メダルを獲得し、2004年のアテネオリンピック後本格的にマラソンに転向。ゴールのたびに見せる表情から「ほほ笑みの皇帝」と呼ばれるようになりました。
私は、この二人が「品格ある強さ」を共に持ち合わせていることに、大変興味をそそられました。なぜ、多くの人々が「ハンカチ王子」や「ほほ笑みの皇帝」に強く惹かれるのでしょうか。今の社会、ますます競争が激しくなり、ともすれば品格は忘れられがちです。そのことが、社会の危うさにもつながっているのではないか、と考えられます。そこに多くの人々が、二人の「品格ある強さ」に感動し、そこに救いを感じ取ったのではないでしょうか。
Tokyo Tech Pursuing Excellence
21世紀は「知の大競争時代」。知を創造し、人材を育成する、大学の国際競争力がこれほど強く求められたことは、これまでありませんでした。国立大学には特段の期待が寄せられていることは言うまでもありません。しかしながら、留意すべきは、「品格ある強さ」の追求であります。すでに、本学は「世界最高の理工系総合大学」を長期目標として掲げました。この長期目標は、教員系だけではなく事務系職員にも共有されたのではないかと思います。この目標のもとに、国立大学法人化と大学マネジメント改革を順調に進めることができました。さらに、全学の教職員の叡智を結集しつつ、数多くの21世紀COEを中心に、世界的な研究教育拠点の形成を促進するとともに、教育改革、産学連携、国際連携に目覚しい進展を遂げることもできました。幸いなことに、これらの実績は国内および国外でも高く評価されております。
いよいよ、次のステップに進むときがきました。しかしながら、世界のリーディング大学の国際競争力が急速に強化されていることを見誤ってはなりません。まさしく、グローバルな大競争がすでに始まっているのです。しかも、本学の国際的ブランド力は必ずしも強いとは言えません。このタイミングを逃さずに、本学のイメージを明確にして、世界にアピールする必要があります。そこで、本学の国際的ブランド力を強化する戦略策定を急ぎました。学長補佐室の真島豊学長特任補佐を中心として、「世界最高の理工系総合大学」の実現に何が必要なのか、長期目標と同様に全学の構成員が共有できるキャッチフレーズは何か、しかも品格をもって表現するにはどうしたら良いか、こうしたさまざまな課題を長期間じっくりと検討してまいりました。その結果が、本学をイメージアップする「ロゴ」、「キャッチフレーズ」、および「メッセージ」のデザインであります。
国際的ブランド力の強化が目的であるため、すべてを英語表記とし、大学名をTokyo Tech といたしました。キャッチフレーズ“Pursuing Excellence”は本学が進むべき道を象徴しております。卓越性(Excellence)の追求(Pursuing)に絞り込んでありますが、本学で展開される多様な教育・研究のすべてにおよぶことは言うまでもありません。しかも、何をもってExcellenceとするかが、本学の品格に関わるところであります。メッセージでは、本学の使命を明確に表明いたしました。
デザインにあたっては、本学の公式カラーRoyal Blueを基調とし、世界に力強く躍進するイメージが表現されています。“Tokyo Tech”のロゴを単独で使うことが多いと思いますが、“Tokyo Tech Pursuing Excellence”として強いアピール力を発揮したいものです。さらにもう少し詳しいミッションをアピールする必要があれば、“メッセージ”を添えられるようになっています。すべてのアピールが品格をもってデザインされていることを願っています。
2007年1月4日から、「ロゴ」、「キャッチフレーズ」、および「メッセージ」は、本学のホームページに掲載されています。これらの管理は、学長補佐室から「広報・社会連携センター」に移管されました。本学の構成員は、基本的なルールに沿って自由に使えます。センターと相談し、大いに活用してください。
これから重要なことは、品格あるブランド戦略の展開です。去る12月13日付けの朝日新聞に掲載された2ページにわたる全面広告には、マイクロソフト社長と学長との対談で訴えました。これからも、品格をわきまえつつ、さまざまな東工大のブランド戦略を世界に向けて展開いたします。
”Tokyo Tech Pursuing Excellence”は、本学が長い歴史を通じて実践してきたことを表現したに過ぎません。白川英樹先生のノーベル化学賞受賞は燦然と輝き続けていますが、2006年に顕著な成果を挙げた方々が高く評価されておりますので、2,3紹介させていただきます。応用セラミックス研究所の原亨和教授は、Scientific American 50 Top Scientistsの11位にランクされました。理工学研究科物性物理学専攻の安藤恒也教授は江崎玲於奈賞を、生命理工学研究科生体システム専攻の岡田典弘教授は藤原賞を、それぞれ受賞されました。また、一昨年に続き、数多くの方々が文部科学大臣表彰を受賞されたことも、大変喜ばしいことであります。東工大挑戦的研究賞が登竜門となってきたことも注目されます。こうした顕彰では、教育面がどうしても手薄になってしまいますが、本学では東工大教育賞を優れた講義を行った教員に授与しております。また、東工大学生リーダーシップ賞を学部学生に授与し、国際的なリーダーシップを発揮するよう元気づけております。こうした受賞者がさらに飛躍的な活躍をされることを大いに期待しております。
蔵前工業会との壮大な合弁事業
次に、「キャンパス構想21」に触れておきたいと思います。これまで、キャンパスの整備は文部科学省から獲得する施設整備費だけに依存してきました。しかし、これだけでは、施設整備も十分に実施できず、景観整備にいたっては絶望的でありました。「キャンパス構想21」は、“Tokyo Tech Pursuing Excellence”に相応しいキャンパスを実現するために策定されました。昨年、学内資金を投入して、大岡山キャンパスの本館前の桜並木に沿って、プロムナードを建設いたしましたが、これはこの構想の先駆けであります。すずかけ台キャンパスについては、中小企業基盤整備機構の出資による「東工大横浜ベンチャープラザ」が竣工いたしました。間もなく、学内資金によるすずかけ台キャンパスの景観整備が始まります。
さて、本学と蔵前工業会は、この度かつてなかった規模の合弁事業を実施するときを迎えました。仮称でありますが、「地域国際交流プラザ」と名づけています施設の建設であります。場所は、大岡山駅上の本学の敷地。双方が同額の出資をして、合弁事業を進めようとする、壮大な構想がまとめられました。国立大学法人化前に、このような構想をつくりあげることができなかったことは言うまでもありません。蔵前工業会は、大岡山に本拠を構築し、本学の学生および教職員との連携をさらに緊密にするとともに、科学技術の振興を推進いたします。一方、本学はこの施設を、文化が漂う大学全体のシンボル的存在とし、学生および教職員の集う場としてだけではなく、蔵前工業会、地域、国際との交流を促進するプラザとなるよう設計を進めているところであります。
総合科学技術会議議員の就任について
最後に、私の内閣府総合科学技術会議議員就任について、少々申し述べておきたいと思います。総合科学技術会議は、科学技術政策の推進のための司令塔として、我が国全体の科学技術を俯瞰し、総合的かつ基本的な政策の立案及び総合調整を行うために、内閣府に設置されています。内閣総理大臣を議長とし、関連大臣と有識者議員で構成されます。私は、1月6日付けで、有識者議員に就任することになりました。当分の間は、東工大学長と国大協会長を務めることが認められています。しかしながら、さまざまな影響がでてくることも懸念されますので、総合科学技術会議議員の重責をご理解のうえ、皆様のご支援をよろしくお願い申し上げます。
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