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【社説】

冤罪防止 “刑事弁護士”をもっと

2007年10月29日

 裁判員裁判の実施、被疑者国選弁護の拡大を前に、「刑事に強い」弁護士の大量育成が急がれる。冤罪(えんざい)防止のためには、使命感はもとより、豊かな知識と弁護技術を兼ね備えた弁護士が必要だ。

 富山県で起きた強姦(ごうかん)冤罪事件の検証作業を始めた日弁連は、弁護活動についても調査するという。

 有罪の確定後、再審で無罪になった柳原浩さんは「国選弁護人に助けを求めたのに真摯(しんし)に対応してくれなかった」と不満を語っている。

 弁護活動に対する被疑者、被告人の不満はしばしば聞く。日弁連は重く受け止め、弁護活動を客観的にチェックしなければならない。

 検察側との証拠収集力の格差、高い有罪率、低すぎる弁護報酬など、国選弁護に情熱を燃やす気になれない要素があることは事実である。おまけに、日本では刑事弁護能力の高い弁護士自体が比較的少ない。

 ほとんどの弁護士の業務の中心は民事事件である。刑事は頑張っても成果を得られる機会が少なく、経済的にもあまり報われないからだ。難事件の弁護は一部弁護士の奉仕精神や職人的活動に支えられている。

 それでいて、弁護士の少ない地域では、刑事が不得意な人にも弁護依頼はあり、引き受けざるを得ないこともある。これが誤った判決の出る背景の一つと指摘されている。

 二年後に始まる裁判員裁判では、素人に向かって平易に説明する表現力、相手に素早く反論できる瞬発的判断力が特に必要とされる。裁判の結論が適正なものとなるには、これまで以上に有能な刑事弁護士の育成が急務である。

 そもそも被疑者国選弁護が広がれば、刑事弁護を担える弁護士がもっと大勢いないと対応しきれない。富山県の冤罪事件が示すように、捜査段階における弁護活動はその後の裁判に重大な影響を与えるだけに、この対策も急がれる。

 日弁連はさまざまな取り組みを始めたが若手育成が中心だ。中堅も含む弁護力を底上げしないと「人権を擁護し社会正義を実現する」(弁護士法一条)使命を果たせまい。

 そのためにいろいろな事件の弁護活動を幅広く検証したらどうか。そうしてつかんだ教訓を継承する研修なども行い、多数の弁護士が刑事弁護の知識、技量を身につけるようにしたい。

 むろん弁護のあり方は事件の個別事情によって異なる。各弁護士の主体的判断、活動をむやみに制約しないことは大事だが、冤罪防止、適正な量刑実現という目標達成へ向けた共通項は見いだせるはずだ。

 

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