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2007年10月25日(木曜日)付

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全国学力調査―これならもう要らない

 これほど大がかりなテストをした成果が、この程度のことなのか。

 小学6年と中学3年のほぼ全員約220万人が受けた全国学力調査の結果が公表された。出題は国語と算数・数学の2教科。結果は次のようなことだ。

 ・基礎的な知識に比べて、活用する力が低い。

 ・全体として都道府県別の差は少ないが、沖縄など一部に低いところがある。

 ・就学援助を受けている子どもの多い学校の成績が低い傾向がある。

 同時に実施した生活習慣調査を重ね合わせると、こんな傾向もみられた。

 ・家で宿題をする方が点数が高い。

 ・朝食を毎日食べる方が点数が高い。

 文部科学省は今回の結果を各都道府県に通知し、今後の取り組みに生かしてもらうという。

 しかし、これらのデータに新味があるだろうか。ほかの調査ですでにわかっていた傾向が大半ではないか。

 文科省が43年ぶりに全員参加型の調査を復活させたのは、学力低下が指摘されたことがきっかけだった。

 私たちは社説で、この調査に疑問を投げかけてきた。すでに全国規模の抽出調査や自治体独自の調査があり、学力や学習の状況をつかむには、それらの調査で十分足りると考えたからだ。

 それだけではない。全員参加だと、調査結果が都道府県や市町村、学校の序列イメージをさらに鮮明にさせかねない。学校によっては、学力調査向けの勉強をさせるようになる恐れもある。

 そうした疑問や心配をかき消すほどの成果を得ることができたのか。結果を見ると、そうとはとても思えない。

 都道府県ごとの格差はなぜ生まれたのか。少人数授業の効果はどうか。これらの点について文科省は、一概には言えないので地元自治体の分析を待ちたいという。肝心なところを地域に委ねるのであれば、全国一律に調査する意味はあるまい。狙いをしぼって、自治体ごとに継続的に調査する方が効果的だ。

 全員にテストを受けさせたため、どこまで結果を公表するかという難しい問題も生まれている。

 文科省は都道府県別のデータを公表しただけだが、データは市町村や学校にも送られる。公表するかどうかは市町村や学校に委ねられる。文科省は過度の競争などの心配があるとして、公表には慎重な扱いを求めている。

 しかし、子どもや保護者、住民にとって、自分たちの学校や自治体の成績が気になるのは当然だろう。ほかの学力テストで、学校ごとの成績の公表を求めた住民の訴えが、裁判所で認められた例もある。保護者らから公表を求められた場合、拒み続けることは難しいだろう。

 今回の費用は77億円にのぼった。来年度の準備も始まっているというが、もうやめた方がいい。同じ予算なら、教員を増やすことなどに有効に使うべきだ。

金大中事件―醜い事実を直視しよう

 若い世代には、この事件を取り巻く異様さがぴんとこないかもしれない。軍事独裁政権、黒い癒着、真相究明にフタをする政治決着……。34年前の事件に再び光をあてる報告書が発表された。

 73年8月。白昼、東京のホテルから韓国の政治家が連れ去られた。当時の朴正熙独裁政権に抗し、民主化運動の先頭にいた金大中氏である。5日後、ソウルの自宅前で傷だらけの金氏は解放された。

 この拉致事件は、韓国の情報機関である中央情報部(KCIA)の組織ぐるみの犯行だった。過去の権力犯罪を調べ直してきた韓国政府の委員会の結論だ。

 トップの李厚洛部長が指示し、在日大使館員を含む24人のKCIA要員がかかわったという。

 あっと驚く新事実が出てきたわけではない。生存する関係者からの聞き取りを整理したものが中心だ。金氏を政敵として恐れた朴大統領の指示があったのかどうかも、可能性はあるが証明はできなかったとしている。

 とはいえ、公権力による犯罪がはっきりしたとなれば、30年以上も前のこととはいえ、改めて事件の処理を見直さなければならない。

 ひとつは、犯行の舞台となった日本に対する明白な主権侵害である。日本の外務副大臣はきのう、抗議の意を込めて駐日大使に「遺憾」を伝えた。韓国政府は公式に謝罪する必要がある。

 形の上では警視庁の捜査は続いている。韓国政府は今回の報告書に使った関係者の証言記録を提供すべきだし、日本の捜査当局が事情聴取できるよう配慮もしてもらいたい。日本側は容疑者の引き渡しを求めるのが筋だろう。

 もうひとつの問題は、韓国情報機関による犯行の疑いが濃かったのに、日韓両政府が2回におよぶ「政治決着」で真相究明にフタをしてしまった責任だ。

 冷戦時代のことだった。北朝鮮と厳しく向き合う朴政権が揺らいではまずいし、日韓が深刻な対立関係になっても困る。ことを荒立てずに、早く事件の幕を引きたい。そうした日韓双方の政治の思惑があったのは間違いない。

 65年の国交正常化以来、韓国には日本から経済協力などの形で巨額の資金が渡り、両国の黒い癒着が言われていた。そんな背景も無縁ではなかったろう。

 今回の報告書は、「政治決着」が闇に葬ったはずの醜い事実をさらけだした。たとえ恥部であっても、歴史の事実は解明すべきだ。

 その意味で、今回の調査を命じ、政治決着の内実を示す外交文書を積極的に公開している盧武鉉大統領の姿勢は評価したい。軍事独裁から民政へという究極の「政権交代」があってこその透明性だ。

 韓国側からここまでの事実が公表された以上、日本政府もこの事件や政治決着についての外交文書などを公開すべきだ。それが日本国民や歴史に対する責任というものではないか。

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