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  ▼ 記者の視点
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メタボリックシンドローム 正しい知識啓発を
日本肥満学会が異例の緊急メッセージ
2007.10.24

 メタボリックシンドロームの診断基準は、現時点では妥当―。日本肥満学会は先週19日に記者会見を開き、緊急メッセージを発表した。

 第28回日本肥満学会の会長を務める宮崎滋氏(東京逓信病院内科・部長)は、会見の冒頭で「診断基準を通じて国民のみなさんに伝えたいことが正しく伝わっていないとの懸念があった」と趣旨を説明した。

 メタボリックシンドロームは、2005年に日本内科学会など8学会で議論を重ね、診断基準を規定した。内臓脂肪の蓄積の指標となるウエスト周囲径に加え、血圧高値や空腹時高血糖、高トリグリセリド血症または低HDL血症の3項目のうち2項目以上を満たす病態とした。

 メタボリックシンドロームは、ウエスト周囲径という一般の人でも簡単に測定できる基準を加えたことで、健康ブームとも相まり、一気に関心を集めた。しかし、最近の一般紙の報道では、ウエスト周囲径の数値の妥当性ばかり論ずるものが目立つとして、日本肥満学会からは正しい診断基準への理解と国民への啓発が必要との認識が示されていた。

 診断基準をめぐっては、世界160カ国の医師で組織する国際糖尿病連合(IDF)が、「男性90cm、女性80cm」を米国、欧州、アジアの各国を統一する基準として提唱。そのほか、この会見前日には東北大の研究グループが「男性87cm、女性80cmが適切」との発表を行っている。いずれも、日本の診断基準と異なり、ウエスト周囲径の基準値は女性より男性のほうが大きい。

 女性は男性に比べ、体格が小さい。周りを見回してみても、女性はやせ型が多いのに対し、中年男性では、おなかが突き出た人が多い。そのため、ウエスト周囲径の基準値が男性より大きいのが腑(ふ)に落ちないのはうなずける。女性の基準値には見直しを迫る医師らの声も大きい。

◎ 松澤理事長がこめたメッセージの意味

 これらの指摘に対し日本肥満学会の松澤佑次理事長は会見で、メタボリックシンドロームは、脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の発症を抑制するために規定された概念であることをたびたび強調した。数値だけに目を向けるのではなく、疾患概念を医師とともに、広く国民にも理解してもらいたいとの思いがこめられている。

 実際、ウエスト周囲径はすべての医療機関で腹部CTによる内臓脂肪面積の測定ができないために、策定された経緯がある。日本肥満学会は今後、内臓脂肪面積をきちんと反映する指標がないか、検討を進めていくという。

 より良い数値を指標とするために、エビデンスを集積し、専門家で議論することは重要だ。ただ、数値や指標の議論に終始するのでは意味がない。

 日本国内の冠動脈疾患の発症率や死亡率は増加の一途をたどっている。メタボリックシンドロームの概念は、高齢化の進展で増加し続ける生活習慣病の発症や重症化に一石を投じるものだ。

◎ 何よりも国民の健康を守る視点で

 来年から義務化される特定健診・保健指導にも、この概念を採用している。国は、疾病の発症を未然に食い止めることで、増え続ける医療費の伸びを少しでも緩やかにする意義を強調する。しかし、それにも増して、何よりも国民の健康を守る上で、メタボリックシンドロームの診断基準が果たす意義は大きいと思う。

 診断基準が規定されてから、2年半が経過した。社会的関心を集めてきたメタボリックシンドロームだが、今後はその真価が問われることになる。これからの日本肥満学会を中心とした疾患概念の啓発活動に期待したい。(望月 英梨)



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