「派遣で医師不足は解消できない」

 医師が不足している地域の病院に医師を派遣する「緊急臨時的医師派遣システム」について厚生労働省は10月23日、医師の人材派遣を認める範囲を「へき地の病院」以外にも拡大して医師不足の地域に派遣できる労働者派遣法施行令の一部改正案を労働政策審議会職業安定分科会(会長=大橋勇雄・一橋大大学院経済研究科教授)に提示した。労働者代表の委員からは、「この制度で医師不足を解決できるとは思わない」「医師が余っている病院はない」「派遣される医師の意思確認がおろそかにされないか」といった意見が相次いだが、同分科会は改正案を了承し、同日付で舛添要一厚生労働相に答申した。厚労省はこれを受け、11月に同法施行令を改正して年度内の実施を目指す。

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 現在の労働者派遣法第4条では「政令で定める業務」について人材派遣が禁止されており、「医療関連業務」が政令で禁止されているが、@紹介予定派遣、A病院、診療所等以外の施設(社会福祉施設等)への派遣、B産前産後や育児、介護中などで休業している医師の代替要員やへき地の病院――に限って例外として認められている。

 今回の一部改正では例外をさらに拡大し、医療機関からの派遣の要請を受け、都道府県に設置された医療対策協議会が必要と認めた場合、都道府県内の主要な医療機関から人材を確保して派遣することができるように変更する。

 派遣元の定義は医療法施行規則で「地域医療に従事可能な人材を抱える地域の有力な医療機関」と規定する。また、派遣先については「個別に医療対策協議会の協議を経ること」を規定する。このため、医療対策協議会の協議を経ずに、独自に派遣医師を受け入れることは認められない。

■ 医師派遣システムについて
 
今回の臨時的な医師派遣システムについて、厚労省職業安定局の雇用保険課長は次のように説明した。
 「医師が勤務先の病院を退職した上で医師が不足している地域の病院に勤務することは可能であるため、労働者派遣の形態が必須ではない。しかし、現在の病院との雇用関係を継続したまま不足地域の病院に勤務するニーズも一定程度あることから、労働者派遣のシステムを使って緊急医師派遣のシステムを構築するという趣旨だ」

 質疑で、労働者代表の徳茂万知子委員(全日本自治団体労働組合副執行委員長)は「派遣元が病院でさえあれば良いとすると、一般の派遣事業者のように登録医師を多く抱えて、(病院が)大々的に業として行うことも可能か」と質問。厚労省職業安定局の需給調整事業課長は「派遣法に基づく許可を受ければ病院が派遣事業を行うことは可能なので、現在もできるし今後もできる」と回答した。

 地域医療対策協議会のメンバーについて、徳茂委員は「医療の世界に詳しい方が揃っているが、労働関係の法令について専門的な知見を持った方ばかりではない」と指摘。「医師と病院との間を調整する役割を担う地域医療対策協議会には労働関連法規を熟知した運用が確保されなければならない。そこをどのように担保するのか」として、医政局と職安局が共同で監督・指導する仕組みや、同協議会に労使代表がメンバーに入ることなどを提案した。
 これに対して、厚労省医政局総務課の企画官は「医療法と施行規則に定められているのは必要的なメンバーであるので、その他のメンバーを加えることについては都道府県に裁量がある」と答えた。

 このほか、徳茂委員は派遣元の医療提供体制に支障が生じることを懸念し、「日赤さん、済生会さんにしても、派遣元になる病院は潤沢に医師が余っている状況ではないと思う。派遣を要請された場合、医師を送り出すかどうかの判断について派遣元の病院に裁量権が確保されているのか。派遣元の医療体制を崩してまで医師を出さなければならないことは起きないのか」とただした。

 企画官は「確かに医師に余裕のある病院はないと思う。この制度は、より深刻な状況にある病院を助けるために協力を願うものなので、協力が義務化されるとか、自分の病院を犠牲にしてまで協力するということは難しいと考えている。『苦しいながらも協力する』と言っていただける場合に、医療対策協議会での調整がなされる」と回答。
 大橋分科会長も「基本的には“応援体制”を派遣法の枠組みでやるという構想で、医師の地域偏在の解消などに対処するため、いろいろ考えてこうなった。これが有効に機能すれば大変喜ばしいので、とりあえずこれでスタートすることをお認めいただきたいと思う」と述べ、理解を求めた。

■ 労働者代表の委員から不満噴出
 
徳茂委員は「緊急避難的な対策が必要である事情は分かる」として、医師派遣システムに一定の理解を示した上で次のように述べた。
 「医師の派遣に慎重だったこれまでの土台が崩れる結果につながってほしくない。病院の職場というのは医療についてこだわりを持つ反面、労働基準法違反に近い実態が指摘されている業界でもある。このような業界に派遣の仕組みが拡大することは、より良い職場環境をつくるという趣旨に反しないよう、医政局と職安局が共同で通知文を出すなど、厳密な対応をお願いしたい」

 また、長谷川裕子委員(日本労働組合総連合会総合労働局長)は「私は部会でも医師派遣には慎重な対応をしてきた。問題は、医師が“○○病院に行ってくれ”と言われることが、どのような法的性格を持つのか。派遣元になる病院と医師との関係、派遣先と医師との関係などを医政局はきちんと病院に知らせてほしい」と求めた。
 その上で、長谷川委員は「この制度で医師不足を解決できるとは思わない。どうしたら日本の医師不足を解決できるか、どのような制度が良いかなどについて、医政局は派遣法を安直に使うのではなく、もっと別のスキームを引き続き検討してほしい」と訴えた。

 しばらく沈黙が続いた後、大橋分科会長がまとめに入った。「今後いろいろ出てくるとは思うが、他に意見がないようならば、当分科会としては厚生労働省案を妥当と認め、その旨を私から労働政策審議会長に報告するが、よろしいだろうか」と各委員に尋ねると、「異議なし」という声が響いた。


更新:2007/10/24   キャリアブレイン

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