今秋から本格化している日米両政府の在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)に関する新特別協定締結協議で、日本側が在日米軍基地で働く日本人労働者向けの諸手当の削減を提案していることが分かった。
削減理由は財政難だ。政府は協議を年内に決着させ、新協定案に基づく経費を来年度予算案に計上するシナリオを描く。日本人労働者でつくる全駐留軍労働組合と既に交渉に入っているようだ。
全駐労は県内の従業員が圧倒的に多い。提案に組合側は「米軍再編に資金がいるからと言って、労働者に負担を課せるのは言語同断。本末転倒」と反発、受け入れを拒否する姿勢を示している。
諸手当が削られることは、働く者にとっては死活問題だ。諸手当を含む給与に基づいて収支の見通しを立て、その上でそれぞれの生活設計が成り立っている。
財政問題を振りかざされ、政府提案をのむよう迫られて「そうですか。はい、分かりました」というわけにはいくまい。
思いやり予算は、在日米軍の隊舎や家族住宅など施設整備を図る地位協定分と、基地従業員の労務費や米軍が使用する光熱水費などの特別協定分に分かれる。
2007年度の思いやり予算総額は2173億円。うち約3分の2を労務費が占めている。政府は削減額を約100億円と設定、従業員に支給される「格差給」の廃止によって削減額の67%は達成できると踏んでいるようだ。
そもそも削減幅にも無理がある。格差給は国家公務員の基本給に10%上乗せされている手当だが、これがなくなれば基本給は1割程度減ることになるからだ。
政府が格差給を「時代遅れ」としてやり玉に上げるのに対し、組合側は「実際には基本給が高いわけではなく公務員の平均給与より低い」と異を唱える。
削減提案の背景には、締結協議の中で米側が電気、ガス、水道代などの光熱水費の大幅増額を求めていることがある。光熱水費などと違い、諸手当削減なら米側には補てんの必要がない。痛みが伴わないから受け入れられる、そんな理屈だ。
海上自衛隊によるインド洋での給油活動の一時中断が危ぶまれる状況を念頭に、日米同盟に傷がつくことを回避する狙いもある。
しかし、それだと一種の「弱い者いじめ」にならないか。合理性に乏しく、説得力を欠くと言わざるを得ない。
思いやり予算については、娯楽施設の整備など米側の要求通りに手厚く振る舞い、国税の無駄遣いと再三、指摘されてきた。そこに手を付けずに削りやすいところに踏み込むやり方は、安易すぎないか。
(10/23 9:43)