時流超流

衣料不況が示す消費減速

ユニクロ、高島屋…未達が続出で「天気より景気」

 主要な衣料品専門店の既存店売上高(下グラフ)を見ると、2007年7月に大きく落ち込んでいることが分かる。7月は、衣料品専門店の主要11社すべてが既存店売上高で昨年同月を割り込んだ。

消費者心理は“冷夏” 衣料品各社が総崩れ

 6月末から7月にかけては、長雨で冷え込んだ時期だったが、消費意欲を萎縮させる出来事が重なった時期でもある。

 定率減税の廃止と住民税の財源移譲に伴う、事実上の増税がその1つだ。給与所得者の多くは、6月末に支給された給与からその“増税効果”を実感することになった。台風や地震も相次いだ。7月末には参議院選挙が投開票されて民主党が圧勝するなど、政治の揺らぎも顕著になった。消費者の景況感や消費意欲を示す指標「消費者態度指数」も、2007年の初夏から大きく落ちている(右グラフ)。

 「消費者に、節約志向が出てきている」。セブン&アイの村田社長は言う。傘下のコンビニ事業会社セブン-イレブン・ジャパンの8月中間決算は増収減益。その理由は、客数は伸びたが、客単価が落ちたこと。コンビニの客単価を押し上げるのは「ついで買い」だ。暑いからコンビニに行って、飲料を買う。そのついでに、雑誌も買う。こうした消費行動を控えて、来店目的である飲料だけを買う。つまり「目的買い」。消費者がこれに徹した結果が、客単価の下落に表れた。

 イオンは8月から、原材料高の影響などで高まる値上げ圧力に対抗して、飲料やティッシュペーパーなど100品目の価格を値上げせずに、むしろ値引きする「価格凍結宣言」を断行。2ケタの売り上げ増効果があった。

 そこには、数百円の商品にもシビアな視線を送る消費者の姿がある。

 イオンのグループ商品担当、久木邦彦専務は言う。「生活必需品である食品ですら1円でも安くと願う消費者にとって、衣服は後回しになる」。多くの消費者にとって、新しい衣類は生活必需品ではない。寒さを防ぐための最低限の衣服は、タンスの中にあるからだ。久木専務は続ける。「定率減税廃止による増税、ガソリン代の高騰、年金不信。この3つが消費心理を萎縮させた」。

 食品や日用品にすら広がる「節約志向」。しかし、業績に与える影響は衣料品に比べれば軽微で見えにくい。食品の消費量は削ろうにも削れないからだ。そのしわ寄せとして衣料品の出費が削られたのではないか、というのが久木専務の分析だ。その分析に従うならば、顕在化した衣料不況は、水面下に隠れた消費者心理の冷え込みの、いわば「氷山の一角」に過ぎない。

天候が先か、景気が先か

 「景気より天気」。その言葉を口にしたファーストリテイリングの柳井会長は、2005年以降、その「天気」に左右されないビジネスモデルの構築を目指し、シャツ、フリースなどのベーシックカジュアル中心の品揃えを一部見直して、ファッション性の高いジーンズ、ジャケットなどの高付加価値商品を拡充した。つまり、気候による必然でなく、デザインを気に入って買ってもらえる商品の開発を目指したわけだ。2006年には、この路線からスキニージーンズというヒット商品が生まれた。

 ところが2007年は続かなかった。流行を作り出すことができなかった。戦うべき相手が「天気」ではなく「景気」に変わっていたからだ。

 ゴールドマン・サックス証券の河野祥アナリストは言う。「大きな流行がなく、現在は衣料不況の状況にある」。流行を作れなかったのは、ファーストリテイリングだけではない。

 国内アパレル総倒れと言っていい衣料不況の現状。良質の商品が生み出されなかったから流行が形成されなかったと考えるよりも、ヒットを求めて火をつける消費心理の高揚がなかったから流行が生まれなかった、と考える方が自然だ。つまり、景気が上向いていない中でファッションという“余裕消費”はあり得ない、ということだ。

 消費者心理をじわりと締めつける増税や不安感。衣料不況の惨状の向こうから、静かに回転数を落としていく国内需要のエンジン音が聞こえてくる。

 日経ビジネス 2007年10月22日号6ページより

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日経ビジネス “ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。NBonlineには最新号の時流超流から毎週3本を掲載します。

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