着地失敗 不安あおる/「事故怖い」住民怒り
【中部】「訓練では何が起きるか分からない」「事故が起きないか怖い」―。米兵二人が、目標地点から外れて着地した嘉手納基地でのパラシュート降下訓練。林の中に落ちた兵士は軽傷、緊急車両が現場へと向かった。かつて読谷補助飛行場で行われたパラシュートによる物資投下訓練での事故を思い出す人も。「伊江島では海に落ちた兵士もいる。訓練はやめた方がいい」。目撃者や基地周辺住民には怒りと不安の声が噴き出した。
雲の間から現れた兵士の大半は、パラシュートを調整しながら同基地南側滑走路周辺の着地点辺りに倒れ込んだ。しかし、一人の兵士は風に流されるように幅六十一メートルの南側滑走路を越え、さらに数百メートル南西の林の中へ突っ込んだ。
また、もう一人の兵士は、事前に設定された着地点から東側の駐車場周辺に着地。いずれも基地内だが、着地点からは大きく外れた。
飛行ルートの真下に位置する北谷町砂辺の松田正二区長は「住民の声を無視して毎日騒音をまき散らす米軍は、パラシュート訓練など何の問題もないと考えているのだろう。着地点からずれた兵士もいるが、民間地でない限り米軍は何とも思わないはずだ」と憤った。
砂辺区に住む女性(74)は「騒音だけでも迷惑なのに、なぜわざわざ近くに住宅地のある嘉手納基地で訓練を行うのか」と米軍を批判した。
昨年返還された読谷補助飛行場で一九六五年、パラシュートでつり下げた小型トレーラーが民家近くに落下、小学五年の女児が死亡した事件などを思い出すといい「訓練中の事故の話を聞いたことがあるので怖い。迷惑だ」と顔をしかめた。
同基地に隣接する嘉手納町屋良の島袋敏雄東区自治会長は「米軍は周辺住民に迷惑を掛けないというが、計算通りにいかないのが訓練だ。地域に不安を与える降下訓練は絶対に反対だ」と言い切った。
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雲の中から姿 緊迫/道の駅かでな
【嘉手納】嘉手納基地が見渡せる嘉手納町屋良の「道の駅かでな」では十九日、パラシュート降下訓練を見ようと観光客や地元住民ら数十人が展望台に詰め掛けた。予定時間が過ぎても訓練する様子がなかったものの、一部が引き上げた直後、突然雲の中から九人が現れた。
「降りてきた」
集まった人の間から声が上がった。逆光のため、黒い影となったパラシュートがゆっくり地上に近づく。突然の出現に、全員がかたずをのんだようにしばらく静まり返った。訓練の様子を撮影しようと、カメラやビデオなどを向ける人も多かった。
伊江島補助飛行場で働いていたという沖縄市の与座正夫さん(73)は「伊江島では風向きによって集落やきび畑、海に落ちることも多かった。訓練は危ないからやめた方がいい」と強調した。
観光で訪れ、たまたま訓練に遭遇した長野県の宮坂実枝子さん(60)は「基地の中に着地したけど、そうじゃなかったら大変なこと。(訓練は)島の人からするとあまりいいことじゃないと思う」と興奮気味に話した。
自宅屋上から監視/嘉手納町知念さん
【嘉手納】曇り空を、九つのパラシュートが降下した十九日午後三時五十分ごろ、嘉手納町屋良の知念正直さん(72)の二階建ての自宅屋上では、知念さんの帽子が飛ばされそうになるほどの北風が吹いていた。訓練終了後、二人が強風のため予定地点から大きく外れて着地したと聞き、「やっぱり自然が大きく影響する訓練だけに、民間地に着陸する被害がないとは言い切れない」と不安そうな表情を浮かべた。
一九六五年、読谷補助飛行場で行われた、米軍のパラシュート訓練のため、一人の少女の命が奪われた。「当時は嘉手納基地でも、住民に通知がないままパラシュート訓練が行われており、人ごとでは済まされない恐怖感があった」。子どもたちに「パラシュートが落ちてきたらすぐに逃げるように」と口うるさく注意したことを振り返る。
訓練予定時間の午後三時三十分ごろ、何度も航空機の音が聞こえてきた。知念さんが双眼鏡を片手に上空を探すが、厚い雲に覆われ、機体は見えない。約二十分後、突如ゆっくりと落下するパラシュートが視界に入る。
「住民を軽視し、米軍の都合を最優先に運用されている基地の実態は復帰前と変わらない」。パラシュートに視線を向けたまま、言い切った。
「例外」として一月に実施されたパラシュート降下訓練は、わずか九カ月後に再び強行された。
危機感は強くなる一方だ。「最初は『一時的』『例外』を理由にしておきながら、いつの間にか当たり前のように恒常的に行うのが米軍の手段。パラシュート訓練も同じことが言えるのでは」。日米両政府に訴えたいことを尋ねると「平和に暮らしたいだけ」と言葉少なにつぶやいた。
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