農林水産省が滋賀県愛知(えち)川支流に予定した永源寺第二ダム計画は違法と確定した。ダム建設計画を白紙に戻す判決は初めてだが、公共事業のあり方を根底から見直せとの警鐘である。
住民の訴えたダム計画の違法性を大阪高裁が認め、国側が上告したのを、最高裁が不受理と決め、高裁判決が確定した。結局この計画は、手続きがでたらめと言われても仕方がない。
農水省自身が決めた設計基準で、ダム計画は実地測量による地形図作成、地質、ボーリング調査など経てダムの規模、貯水容量、工事費を決める。永源寺第二ダムは、これらの調査を一切行わず全体設計をしたため、その後の工事実施調査で工事費の大幅増が分かった。
自分で決めた基準による手続きさえ守らず、公共事業における費用対効果や経済性も無視したと言わざるを得ない。場当たりの、公共事業のための公共事業の典型である。
熊本県球磨川流域の川辺川ダム建設計画でも、農水省の担当する用排水事業について、福岡高裁が二〇〇三年五月、手続きの違法性を認め、判決が確定している。
署名の捏造(ねつぞう)、偽造が疑われたほか、事業実施の条件として土地改良法が定める対象農家の三分の二の同意がなかった。この場合は、法定の手続きすら破られたことになる。なぜそうまでして、強引に事業実施を目指すのだろうか。
今春、コンサルタント業務で官製談合が摘発された同省所管の独立行政法人・緑資源機構の大規模林道建設も同じだ。自然を破壊するだけで、林業の不振を食い止める何の役にも立たないと批判されても、なお続けられている。
農地改良、農業用の水路や農道の整備、林道建設や森林保全などにかかわる公共事業は、「農業土木」と呼ばれる。受益者負担を伴うものもあるが、国などから巨額の予算が投入されることは、ほかの公共事業と同じである。
公費の無駄遣いを抑え、農家などの負担を軽減するためにも、農業土木のあり方を根本的に見直す時である。とくに多額の金食い虫になりがちなダムなど大規模事業にメスを入れる必要がある。
農業の現状、他産業との均衡を考え個別の事業が真に必要か、投資に見合う効果が期待できるか精査し、結論を出すべきだ。発注する組織と職員の地位を維持したり、受注業者を一時的にうるおしたが、完成した施設が無用の長物になったケースは少なくない。とりあえず永源寺第二ダム計画はきっぱり清算すべきだ。
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