昨年10月、福岡県筑前町の中学2年生がいじめを苦に自殺した事件から1年。隣接する同県小郡市で事件を風化させまいと、市民ミュージカルが上演される。演目は「ハードル-真実と勇気の間で」。いじめをテーマにした同名のベストセラー児童文学書(青木和雄著)を脚本化した作品。出演者の中には自らいじめを経験した子どもやその親たちもいて、スタッフも含めそれぞれが思いを込めた舞台が20、21両日、幕を開ける。

 「なぜ。どうして、僕がこんな目に-」

 同級生に囲まれ、暴力を受ける主人公の中学生、麗音(れおん)の悲痛な叫びが舞台に響く。

 麗音を演じる同県大刀洗町の高校1年生、平田智絵里さん(16)はリハーサルでこの場面を演じるとき、最も麗音の気持ちに近づくという。

 平田さんは小学生のころ、友人らに無視されるなどのいじめを経験した。しかし相手には何も言えず、心の中でだけ「なぜ」と叫び続けた。

 「麗音と自分では性格もいじめの種類も違う。でも、いじめ解決には声を上げることが大事だと思うようになった」

 成長していく主人公を演じ、心のつかえの1つが取れたような気がした。

 物語は転校生の麗音がいじめを受けて学校の階段から転落、重傷を負う。いじめを隠す学校に対し、友人たちが真実を求める声を上げる姿などを通して、麗音も成長していくという内容。

 音楽を通したまちづくりを目指す小郡市の市民団体・小郡音楽祭実行委員会などが企画した。出演者を募集すると、小学4年生から70歳までの一般市民約70人が応じ、3月から練習を重ねている。

 中にはミュージカルを通じて、いじめによる心の傷を乗り越えようとしている親子もいる。

 中学時代にいじめを受けた長女(18)と母親(43)は親子で原作を読み参加を決めた。

 長女は当時、学校で自転車のタイヤをパンクさせられたり、悪口を書いた紙を渡されたりして、学校を休みがちになった。心の傷は深く、今でも情緒不安定になることもあるという。

 「舞台の中で、いじめた同級生が後悔に泣き崩れる場面に、とても胸が熱くなります」。母親は長女の中学卒業前にいじめた側の1人が自宅に謝りに来た姿と重ねる。

 「いじめは、する側もされる側も深い傷が残る。相手を思いやれる優しい社会になってほしい」。そう願い、舞台に立つ長女を見守っている。

   ◆   ◆

 公演は同市の市文化会館で20日午後6時半と21日同1時、同6時半の3回。チケットは4歳以上1000円。問い合わせは同市生涯学習課=0942(72)2111。

=2007/10/19付 西日本新聞夕刊=