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社説1 財政立て直しの基本は成長と歳出削減(10/19)

 急速な少子高齢化が進むなか、借金漬けの財政をどう立て直すのか。内閣府が17日の経済財政諮問会議に出した将来試算は、経済成長を高め、歳出削減を続けることがいかに重要かを示した。高齢化で社会保障給付が増えていけば将来の増税も避けられなくなるが、その幅を極力小さくする努力が欠かせない。

 福田康夫首相の就任後、諮問会議が財政問題を議論するのは初めて。少子高齢化が一段と進み、2025年度には20―64歳の現役世代1.9人で65歳以上の高齢者1人を支える格好になる。給付と負担の両面で世代間の公平が問われており、税制と社会保障を一体で議論する姿勢は評価できる。

 試算が示す財政の将来像は厳しい。政府は昨年、11年度までに基礎的財政収支を黒字にする目標を掲げた。毎年の経済成長率が名目3%(実質2.4%)で14兆円余りの歳出削減をすれば増税せずに達成できるが、名目成長率が2.2%(実質1.6%)に落ち、毎年1兆円の新たな歳出を上積みした場合は6兆6000億円の増税が必要になる。

 実態は後者のシナリオに近づきつつある。国際通貨基金(IMF)は最新の世界経済見通しで08年の日米欧の成長率予測を春時点から下方修正し、日本は実質1.7%に鈍化する。

 福田政権では従来の歳出削減への反対論も続出している。諮問会議でも舛添要一厚生労働相が「歳出抑制は限界に来ている」と述べ、医師不足や少子化対策などで社会保障費が増える可能性に言及した。

 自民党や公明党は来春に予定した高齢者医療の自己負担増を凍結するため、今年度の補正予算で追加財源を確保する意向だ。1990年代には厳しい当初予算と裏腹に補正で公共事業を積み増す例が相次いだが、その形に似ている。歳出削減のタガが緩み始めている。

 増税幅を広げて財政赤字を埋めるようでは、実体経済を冷やして税収があがらない悪循環に陥る。内閣府試算によると、現在の医療・介護サービスの水準を変えずに政府の債務残高を減らすには、25年度に8兆―29兆円の増税が必要という。消費税1%分の収入を2.5兆円とすれば最大11%の増税に相当する。大増税のもとで名目2%成長を想定するのは非現実的だろう。

 海外の成功例をみても、財政健全化は増税よりも歳出削減を主体にすべきだ。規制緩和などの成長促進策も強力に進め、経済を殺さずに財政を立て直す知恵を絞る必要がある。

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