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「環境は主要因でない」 光市検察側弁論要旨(10) (2/2ページ)

2007.10.18 20:20
このニュースのトピックス光市の母子殺害事件

 この供述は、その生育環境が被告人に影響を与えた可能性はあっても、それが潜在的副次的なものであったことを如実に示しているものであって、生育環境が本件犯行を決定する主要因ではなかったことが明らかに示されている。

 しかしながら、被告人はその後、本件犯行についての被告人の責任を軽減するがために自らの責任を生育環境に転嫁することを考えるようになっていくのである。このことを示しているのが、被告人が友人にあてた手紙の「ヤクザはツラで逃げ、馬鹿(ジャンキー)は精神病で逃げ、私は環境のせいにして逃げるのだよアケチくん」という記述である。

 臨床心理鑑定人はこの記述について「環境というのは非常に、彼にとって記号的な言葉でありまして、自分の具体的な環境とつなげて考える力はありません」と証言するが、上記供述調書の被告人の供述に照らせば、被告人が環境という言葉を単なる記号としてとらえているのではなく、自分の具体的な環境と結び付けていることが明らかである。

 もともと被告人は「非難拒否を避けるため取り繕いや言い訳はかなり巧みである」とされ、また「(少年鑑別所)在所中に行った精神科医の診察によると、不遇な家庭環境を強調して関心を引こうとする様子…」が見られたことが少年事件記録に記載されている。

 そのような被告人が最高裁の判決を受け、死刑に直面するという状況下において、臨床心理鑑定人および精神鑑定人の鑑定面接を受けているのである。しかも臨床心理鑑定人はその調査手法として、調査結果を本人に開示し、本人がドラフト等を見て内容についてフィードバックするという方法を採っている旨証言している。被告人としては、鑑定人が本件犯行をどのように被告人の生育歴と結び付け、どのように解釈しようとしているかを理解した上で面接に応じているのである。

 実際に、被告人の供述は上告審段階と臨床心理鑑定人による鑑定が行われた後では大きく変遷し、臨床心理鑑定書の結論に乗じたものとなっている。

 例えば、被告人はガムテープで被害者の手を縛り、鼻口をふさいだ理由につき、上申書では「気絶から覚めて抵抗されたら困るので、ガムテープで縛って抵抗できないようにしようと考えた」としているのに対し、第2回公判では「お母さんが変貌(へんぼう)を遂げられるのを防止するための措置として」として、被害者を被告人の実母と同一視していたことを強調する内容となっている。

 また、被害者の乳房に対する行為の理由についても、上申書では「気絶したふりをさせないようにしようと思った」としているのに対し、臨床心理鑑定書では「一連の行為は、生きていれば恥ずかしいから反応を示すと思ってやったことである」「そのあと、赤ん坊を演じていた」とされるようになり、第2回公判期日には「このときの僕の感覚では、赤ん坊になったような心境ですね。そういった甘えたいといった気持ちが同居しておりまして」として、いわゆる母胎回帰ストーリーに合わせようとしている。

 最高裁あての上申書に記載された被告人の供述はそれなりに合理的なものとなっており、通常人に了解可能であるのに対し、当公判廷における供述は、いわゆる母胎回帰ストーリーという特異な解釈による以外、通常人からは到底理解しがたいものとなっているのであって、被告人の供述が臨床心理鑑定書に触発され、これに乗じているものであることは明らかである。

▽(4)本件以前は異常行動を起こしていなかったこと

 仮に被告人がその生育環境に支配され、その行動が生育環境によって決定付けられているものであれば、本件以前にも、いわゆる母胎回帰ストーリーをもって説明しなければならないような異常行動があってしかるべきであるが、そのような異常行動は起こしていない。

 弁護人は、被告人がアパートの各戸を順次回った行為について、強姦目的の物色ではなく、仕事を欠勤したことの後ろめたさと人恋しさから仕事のふりをして戸別訪問したものであるとしている。

 しかし、仕事のまねごとをして後ろめたさが解消されるはずはなく、また、単なる人恋しさから初対面の家庭を順次訪問するというのは常軌を逸した行為といわざるを得ない。18歳になり、高校を卒業して就職し、曲がりなりにも通常の社会生活を送っていた被告人の行動としては理解できないところであって、実際、本件以前に被告人がこのような戸別訪問を行った事実はないのである。

 また、被告人は被害者と実母が混同したとするが、本件以前に被告人が乳児を抱いた女性を見たことがないはずはなく、被告人が過去に見ず知らずの女性に甘えようとしたという形跡もない。

 臨床心理鑑定書および精神鑑定書とも本件当時の被告人がその生育歴による強い影響下にあって、異常な精神状態にあったことを前提として、退行状態で説明しようとしたものであるが、本件までに被告人が退行状態に陥って異常な行動を起こしたことは何ら認定していない。また、本件当日のみことさらに退行現象を引き起こした理由は述べていない。すなわち、本件当日、被告人が退行現象にあったとするのは、犯行を退行現象で説明しようとした牽強付会の議論といわねばならない。

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