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たまきち★
おお振り、ブリーチ、戦国BASARA大隙ですvv
特に今はヘタリアにハマっています!!大和撫子な日本受け大好きですvvv
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2007年10月18日13:56共鳴(英日)
そんなに力を込めなくても良いだろうと思う程に強い力が込められているせいか指先は白く色を変えていた。
空いた片手で抑えているから良いもののそうしていなければきっと書類は走らせているペン先ごとあちこちへと移動していそうだ。その様を想像して少し噴き出してしまいそうになる。
慌ててそれを堪えて咳払いで誤魔化した所で彼が気付く筈もないという事に気付いたのは、書類を睨み付けている日本へと視線を戻した時になってから。

緊張しているのか時折深く息を吐き、その度ごとにきゅっと唇を噛み締め直す。そこまで強く噛むと跡が残りそうだなと思いはしてもそれを口にはしなかった。
書類に書き連ねてられていく文字は日本語が未だよく分からないイキリスには何が書かれているのかは分からない、ただそれが几帳面にきっちりと書かれているという事だけは分かったから。

「―――――…終わりました」

そうして日本の姿を眺めたままの数分が過ぎた後、最後の押印までを終えてからイギリスに手渡そうとする前に改めて内容から捺印がしっかりと為されているのを確認し終えて、ようやく大仕事を終えたとばかりに肩で息を吐く。
そんな日本の姿に普段の穏やかな物腰の彼からは想像もつかないなと自然と口元が緩んだ。
決して揶揄の意味ではなく、そんな姿もまたお互いが多少なりとも歩み寄れた事への証のようだと思えた安堵からか。

「ああ、確かに」

その安堵もそこそこに、仕切り直しを兼ねて組んでいた足を組み替えてから受け取った書類の紙面へと同じように目を走らせる。
何度も繰り返し確認した、誤字も無ければ内容も相違無い。自身の名前も彼の名前も、また両国の捺印もはっきりと確認出来る。
これで、ようやく。

「お疲れさん。これで同盟締結だ」
「はい…イギリスさんもお疲れ様です」

どう見ても疲れているのは日本の方だとは思うけれど意識しない所で自分も緊張していたらしい。ほっと胸を撫で下ろして朗らかに笑う彼に安堵の溜め息を吐いた所で肩に力が入っていた事に気が付き、らしくないと視線を泳がせつつ深呼吸をしてみた。

書類をサイドボードへと乗せ、どうせこの部屋には日本しかいないのだからと少しネクタイを緩める傍らで彼へと視線を戻すと呆けたようにこちらを見ている目と目が合った。
途端、驚いたように彼の肩が跳ねて大きく目を瞠って。

「…日本?」
「え…? あっ」

呼びかけると数度の瞬きを繰り返した後、すみませんと膝に額がつく程に深く頭を下げて謝罪の言葉を述べた。
いや別に構わないが、と返した言葉はこちらも呆けたものになる。

「…まあ、とりあえず頭を上げてくれないか。落ち着かないんでな」
「すみません…」
「謝るな。どうかしたのか?」
「いえ…とても失礼だとは思うのですが、同盟締結に至る事が出来て安心したせいか…少し、気が抜けてしまいました」

すみません、とやはり謝罪を繰り返す彼に肩を竦めてみせる。
彼の言葉の内容は失礼どころかこちらをも安堵させるに十分だと思う。何より同盟を申し出る為にわざわざ足を運んだのはどちらであったのかを彼はすっかり忘れているらしい。
それを無事締結に至らせる事が出来たのだから安心したとはむしろこちらが言うべき台詞だ。
恐縮しきった様子で視線を落とし、置かれたままでいたカップへと手を伸ばす日本はそれらに全く考えが結びつかないようだった。

返答として思っている事をそのまま口にしてやれば早いのだろうと気付きつつも何となくそんな彼の様子を眺めるのが楽しい。
だからと弁明は後回しにする事を決め込んで、イギリスも日本に倣って傍らのカップへと手を伸ばした。

書類にかかる前に運ばれてきたそれは数時間も経った後では当然ながらすっかり冷め切っていて苦味も強かった。
こんなものを相手に飲ませるのは少々プライドが許さない思いはあるが生憎と人払いをしている今は煎れ直させる事も出来ない。
ただ自分でも気付かない内に随分と喉が乾いていたようで、喉を潤す為の役割だけなら十分に果たしてくれた。

「―――――…ところで、そんなに気を許して良いのか?」

一呼吸を置いた事、乾きを癒せた事で多少の余裕が出てきたのかもしれない。
ささやかな嗜虐心のままにぽつりと呟くと予想通り、それを聞き咎めた日本がばっと顔を跳ね上がらせる。
丸々と瞠られた目はただイギリスだけを映して不思議そうに瞬いて。

「もしかしたらこれは罠かもしれないだろう? 俺が、お前を陥れる為の」

ゆっくりと言い聞かせるような言葉と共に机上に手をついて身を乗り出すと机越しに日本の首元へと手を伸ばす。
彼は女性でも子供でもない、それでもその首は細く、手袋越しにも伝わる体温はこのまま力を入れると今すぐにでも奪ってしまえそうな錯覚を覚える。

「仲間だと油断させておいて中枢から叩く、そんな計画かもしれない」

本当にそうするつもりなど全くない。
なら何故こんな事をするのかと問われればそれは単に彼をからかいたくなったから。

実際にここまで表情を崩す彼はとても珍しい。
いつも穏やかな物腰でいて慌てる事など無いと思えるような彼が、今は大きく目を瞠ったまま拒むべく言葉も持たずただイギリスの言動にだけ目を奪われている。他意はなくただそんな彼をもっと見たいと思ってしまった。

「もしそうだったら、お前、どうするんだ」

そう言えばもっと困るだろうと思った。
眉を寄せて音にするべき言葉を見付けられないままに困惑に眉を寄せて、また謝罪の言葉を紡ぎでもするのだろうとばかり思っていた。

それで不快になったからと締結したばかりの同盟を破棄にされては困る、そう思い至ったのと彼がゆるりと首を振ったのとはほぼ同時。

先ほどまでのイギリスの予想は悉く外れて、首へと手をかけられたままだというのに笑みさえ浮かべた彼は緩やかに首を振ってみせた。
イギリスさん、と柔らかな声が耳をくすぐる。

「私はどうもしません。そんな事は起こり得ないですから」

謳う言葉は強く凛とした響きを以って逆にイギリスの言葉を奪っていく。
自身の手をそっと覆う手に無理やりにでも引き剥がされるのかとの予想はこれも外れて、日本の手はただ添えられるだけで離させようとする様子は無い。緩やかに力が込められただけだった。

「私と貴方との会合は確かに回数こそ多くないのかもしれません。ですが、その中で私は私なりに貴方という人柄に惹かれて国性に尊敬を抱き、信頼の置ける方だと思いました。だからこそ同盟をお願いしたいと思ったのです」

漆黒と呼ぶのだろう深いその目は愚直なまでにイギリスだけを映し出す。
身を乗り出しているのはこちらなのだから傍目には覗き込んでいるのはイギリスの方だというのにまるで逆に全てを覗き込まれているような。
正確な判断もつかない程に目の前の光景が、耳に入り込んでくる音がイギリスを捉えて離さない。

「その上で私が貴方に裏切られるのだとしたら、私がその程度の国だったという事なのでしょう。利用するだけされて後は捨てられてしまうような」

ふ、と日本の目が更に細められる。
嘲りとも、逆に自嘲とも取れるような微笑みに表情が歪む。それは笑っているのにまるで今にも泣き出しそうな程に。

ですが、と日本の凛とした声は尚も謳い続ける。

「ですが、もしそんな事態が起きたとしても、私はそれを受け入れないままでいたい」

瞬きを幾度も繰り返したさの時になって初めて自身がそれさえ忘れていた事を思い出す。少し掠れた視界にも彼の目だけははっきりと映り、言葉は一言一句逃がれる事なく耳へと届く。
紡がれる言葉が彼の唇の動きごと、スローモーションのようにゆっくりと脳裏に刻まれていく。

「ほんの数瞬だとしても貴方との同盟の締結は事実。ならば例え貴方の言葉全てが偽詐に過ぎないものだとしても、私が一片たりとも疑う事なく全てを信じ通したのなら、それは真実に成り得ると思いませんか」

国の姿勢としてはとても誉められたものではありませんが。
そう締め括った彼の目も声も鋭くそして力強く、泣きそうだとの感想を抱いた自分の目はどうかしてしまったらしい。

日本は見た目には穏やかで、どちらかというと弱々しい印象さえ受ける。
けれど目の前の相手は見た目通りに簡単に行ける程やわなタチじゃない。この意思の強さ一つ取ってみても一筋縄で行くはずが無いと。
意図せずして長い溜め息が口から漏れて、全身に大きな脱力感。

「―――――…その…嘘じゃない、からな」
「え?」

彼に対しての認識を改めるのはこれで何度目だろうとの溜め息と共に吐き出した言葉は上手く届かなかったのか、それとも仕返しのつもりか。
どちらにせよ聞き返してきた日本をぎっと睨み付けて彼が怯んだ隙にそっと首を掴んでいた手を離した。

「…イギリスさん?」
「むしろ嘘や冗談の類にされてたまるか。認めてるのはお前だけじゃないんだ、俺がどんな思いで、お前を選んだか…っ」

離そうとした手を追いかけ捕まえる手のひら、それの持ち主は黒の目を丸々とさせて自身を見上げてくる。
慌てて空いた手で口元を覆ったお陰か最後までは言葉にならなかった。けれど、その瞬間に確かに見た。
見て、しまった。

全てをきちんと言葉にした訳でもないのに、日本の顔に今までのどの笑顔とも違う、ひどく嬉しそうな色が滲むのを。

イギリスさん、漏れる声も心なしか弾んで聞こえるのは気のせいか。
それともそう聞こえて欲しいとの願いのせいか。

「…とにかく、既に同盟は正式に結ばれたんだ。今更覆すなんて無理だからな!」

分かったか、と顔を逸らせたままで口調は荒く問い掛ける。自身でも不思議な事に掴まれた手は振り払えなかった。
答えの返らないほんの数秒がやけに長く感じられて、分かったのかと再度答えを急かせるとそこから数瞬の後、小さな笑い声と共に「はい」と肯定の言葉が返ってきた。

「……分かっているなら良い」
「はい。…有り難うございます、イギリスさん」
「…でも勘違いするなよ。この同盟はお前の為でも何でもない、あくまで俺の目的の為に過ぎないんだからな!」

相手の反応を引き出すべく揶揄し始めたのは自分。
なのにそれを逆に、しかも手ひどくしっぺ返しされたような。更にその場の主導権は全てあちらに握られたような気がするのは何故か。
分かっていますと言いながらくすくすと笑う声が癪に障るのでせめてもの腹いせにと取られたままでいた手を握り返すと、日本は今日で何度目かの驚いたような表情の後に顔を伏せてしまった。
少し赤らんだ頬に「勝った」との歓喜が込み上げて、けれどそれもすぐに後悔へと摩り替わる。

何処ぞの馬鹿なイタリアのように過度のスキンシップに慣れている訳でもないのに何で俺はこんな事をしてるんだ馬鹿か。それともまだ陽も高い内から寝惚けたか。ああいっそ今し方のやり取りだけは夢でしたで済めばどんなに良いか。
ただ同盟までが夢でしたでは困るからそれだけは勘弁してくれ。
あらん限りのぼやきと自問を自身へと投げかける。それでも手は不思議と離そうとしないまま。

手が固まって離れないんだとの言い訳を誰に向けるでもなく心の中で繰り返しながら、手袋越しにも伝わる温もりがやけに熱くて、だから自分の頬まで熱く感じるんだと舌打ちしたい思いのまま空いた手で荒くそこを拭った。




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WW1の頃ですvvv