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社説:亀田選手処分 視聴率に踊らされた厚化粧ボクサー

 「ボクシングはスポーツであるが故にあらゆるボクシング試合はスポーツマンライクの態度をもって行われるべきである」。日本のプロボクシングを統括する日本ボクシングコミッション(JBC)の憲法ともいえる「宣言」の総則の冒頭にある一節だ。

 この宣言を持ち出すまでもないが、11日の世界ボクシング評議会(WBC)フライ級タイトルマッチで、反則行為を繰り返して判定負けした亀田大毅選手(協栄ジム)の試合は、そもそもボクシングでもスポーツでもなかった、ということだろう。

 ボクシング関係者は、亀田選手のようなスポーツマンとしても未熟な選手を、最高の舞台である世界タイトルマッチのリングに上げたことを深く反省しなければなるまい。人気をあおったマスコミの責任も免れないが、とりわけ今回の対戦を過剰に盛り上げ、試合を放映したTBSの責任は重い。

 TBSだけを批判するつもりはない。かつてボクシングの世界戦は確実に視聴率を稼げるテレビ局のドル箱番組だった。4月、10月の番組改編期には、ライバル局の新番組のスタートに世界タイトルマッチをぶつけるのがテレビ局の常とう手段だった。

 だが、近年はボクシング人気の低迷もあって、確実に視聴率を稼げる世界チャンピオンがいなくなった。そんな中、父史郎氏が手作りで育て上げた異色の兄弟ボクサー、興毅、大毅選手の出現は、彼らの過激で挑発的な言動もあいまって、テレビ局には久々に「視聴率の取れる」ボクサーの出現と映ったのだろう。

 これまで多くの世界チャンピオンを取材してきたが、共通していたのはハングリーな精神と、ストイックな生き方だった。そうしたボクサーのイメージを亀田父子は一変させた。試合前からやくざまがいの言動で対戦相手を挑発し、自分の大物ぶりを誇示しようとしているように見えた。

 興行である以上、話題を提供する意図は分かるが、彼らの振る舞いはボクシングの品位を汚しているようにしか思えなかった。また、そうした行動が若者に支持されているとしたら、その風潮を嘆くべきなのかもしれない。

 大毅選手はリング上で一敗地にまみれ、国内最年少での世界王座獲得の夢は砕け散った。試合の終盤、反則技を繰り出すしかなかったのは、ボクサーとしての経験と力量の不足を本人が一番痛感していたからだろう。対戦した内藤大助選手には実に迷惑な話だ。

 高視聴率を狙ったテレビ局の思惑に乗せられ、厚化粧して世界戦のリングに上がった大毅選手。まだ18歳だ。1年間の資格停止は化粧を落とし、一から出直すいい機会になるはずだ。ひたむきに技術と心を磨き直し、世界に挑戦するにふさわしいボクサーとして再び姿を見せてくれる日を待とう。

毎日新聞 2007年10月17日 0時06分

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