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危険病原体、ずさん管理 特許生物寄託センター

2007年10月17日06時03分

 経済産業省所管の産業技術総合研究所の特許生物寄託センター(茨城県つくば市)が、人に健康被害が出るおそれのある病原体約300株を、内規に違反して受け入れ、十分な感染防止設備もないのに、非常勤職員に培養などをさせていたことがわかった。この事実に気づいて早急な対応を求めた元幹部に対し、口外しないよう、再三、求めていた。経産省は遅くとも03年に、こうした事実を把握していた。特に危険とされる病原体3株は今年6月の法改正施行で届け出が必要になったため、5月末に処分していた。

 同センターは、微生物を利用した特許の出願に必要な証明書を交付するため、特許発明者から微生物を預かり、管理を請け負う施設。ただし、世界保健機関(WHO)の国際基準を満たす十分な感染防止設備がないため、04年までは危険性の低い「生物危険度レベル1」の微生物しか受け入れることができないと内規で定めていた。

 しかし、朝日新聞が入手した内部文書によると、01年の時点で、人に症状が出る危険性のある「レベル2」以上の病原体296株を受け入れていた。このうち、84年、88年、90年に2法人1個人から受け入れた3株は、「レベル3」の病原体で、人が感染すると発熱などを起こし、最悪の場合は死に至ることもあるブルセラ菌2株と鼻疽菌(びそきん)1株だった。

 さらに99年までの間、当時29〜60歳の非常勤女性職員ら8人に計15回にわたり、「レベル3」として受け入れた菌の培養、生存確認試験などの作業をさせていた。女性らは危険な菌であることは知らされずに、無防備なまま試験していた。当時、同センターには通常の実験室しかなく外部からの出入りも自由だった。

 産総研の幹部によると、内規や知識が組織内に十分周知されず、担当職員が無知なまま、危険な菌を受け入れてしまったようだという。また、産総研は、この菌による感染者は確認していない、としている。

 同センターの幹部の一人は01年にこうした事実を把握、産総研や経産省、特許庁などに対処を求めた。だが、産総研はこの幹部に対し、外部に情報を漏らさないよう繰り返し求めた。

 同センターは、04年になって「レベル3」の菌を施錠できる耐火性の保冷庫に密閉、隔離したほか、「レベル2」は受け入れ態勢を整えた。

 産総研の一村信吾理事は取材に「受託できない微生物を受け入れ、生存確認の試験をさせていたのは事実。ただ、何も知らずに試験した人に事実を告知すると、精神的なダメージが大きいと判断し、告げなかった」としている。

 今年6月に改正感染症予防法が施行され、「レベル3」の3株は、バイオテロ対策の規制対象になった。感染防止設備のある施設でしか扱えず、また、所持する場合も国への届け出が義務付けられたため、同センターは改正法施行の前日の5月31日に3株を処分した。その一方で、一村理事は「2年前に菌の一部を研究機関に預けていた。その菌を調査した結果、今年7月に3株とも危険性の低いレベル1との結果を得た」と説明している。

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