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問題指摘の声、封印 病原体ずさん管理

2007年10月17日06時04分

 ブルセラ菌、鼻疽菌(びそきん)といった危険な病原体が、経済産業省所管の研究機関でずさんに取り扱われていた疑いが浮上した。茨城県つくば市の独立行政法人・産総研特許生物寄託センター。幹部は職員に「話をしないように」とする口封じのメールを流していたという。関係官庁である経産省や特許庁もこれまで問題の解決に乗り出すことはなかった。

 木々に囲まれた産総研の一角にある特許生物寄託センター。鉄筋2階建ての建物の中で、白衣姿の職員が黙々とフラスコやシャーレを動かしている。職員には非常勤の女性が多いという。

 センター内で、病原体約300株のずさんな管理を問題視する声が初めてあがったのは、01年前半だった。

 関係者によると、同年秋、上部組織にあたる産総研の企画本部に早急な対応を求めた幹部もいた。ところが、当時、企画本部にいた一村信吾理事からは「指示がない限り、対内的、対外的な行動を何もとらないでください。この件を話題にすることも控えてください」という返事のメールが届いたという。

 当時、米国では「レベル3」の炭疽菌によるバイオテロ騒動が社会問題になっていた。問題を指摘した幹部は、所内の会議やメールなどで、菌を扱っていた非常勤職員を捜し出して、真実を告げ、病原体に感染していないか、早急に血液検査するよう求めたという。しかし、対策はとられなかったようだ。

 結局、この幹部は退職したが、病原体のリストを特許庁などに示し、対処を求め続けたらしい。

 すると、この一件は「情報持ち出し問題」にすり替わってしまった。後任の幹部らが「(リストを)特許庁職員に渡した行為は、(職務上知り得た情報を漏らすことを禁じた)国家公務員法に違反するものであり、深く反省しております」と書いた誓約書案に署名するよう、再三、迫った。誓約書案では「深く反省しております。2度と違反行為は行わないことを誓約致します」とわびることを要求した。現時点までこの幹部は署名に応じていないという。

 取材に対し、一村理事は、口外しないよう職員に求めたことを認めながら「口封じなどではない」と釈明した。情報持ち出し疑惑として扱ったことについては、一村理事は「寄託微生物のリストは特許の手続き上、外部に漏らすべきものではない。退職後にも持ち出していることが分かったので、廃棄などを求めた」と話している。

 所管官庁はどう対応してきたのか。産業界の微生物関係を扱う経産省の生物化学産業課は、毎年産総研からレベル3、レベル2の生物を保管しているという報告を受けていたが、「何を預かってはいけないという内規までは把握していない」と話す。

 また菌類の保管などの業務をセンター側に委託している特許庁は、03年に元センター幹部から指摘を受けたことを認めたが、対策に乗り出さなかった。同庁企画調査課は「当時の担当者が、産総研に対し『しっかりやってほしい』と伝えたようだ」と答えるにとどまった。

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