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検定撤回は将来禍根 米軍施政下「沖縄戦の真実」封印

2007.10.15 22:27
このニュースのトピックス少子・高齢化社会

 高校日本史教科書の沖縄戦集団自決に関する記述で、「日本軍に強いられた」と書いた教科書に検定意見がつき修正された問題は、沖縄県側の大きな反発を招き、政府を揺さぶっている。15日も、沖縄県の「教科書検定意見撤回を求める県民大会」実行委員長を務める仲里利信県議会議長が、大野松茂官房副長官を首相官邸に訪ね、記述の回復を要請した。だが、検定は近年明らかになった事実や新証言をもとに「軍が命令したかどうかは明らかといえない」と指摘したにすぎず、軍関与は否定していない。県側が過敏ともいえる反応を示したのはなぜか、背景と事情を探った。(阿比留瑠比、小田博士)

 ■沖縄県内からも異論

 昭和20年の渡嘉敷島の集団自決をめぐっては昨年8月、戦後の琉球政府で軍人・軍属や遺族の援護業務に携わった照屋昇雄氏(83)が産経新聞の取材に対し、「遺族たちに戦傷病者戦没者遺族等援護法を適用するため、軍による命令ということにした」と証言し、「軍命令」説を否定した。

 照屋氏はこの発言後、「相当な嫌がらせを受けた」(関係者)というが、同様の認識を示す人は沖縄県内にもいる。

 元宜野湾市議の宮城義男氏(83)は「同年配の各市町村の幹部らとの私的な会合では、『軍命令はなかった』『遺族年金をもらうために軍命令にしたということだ』といった話をよく聞いた。しかし、こういう話は表に出ない」と話す。

 宮城氏自身も陸軍病院などで傷病兵らの看護にあたる「ひめゆり学徒」だった妹を沖縄戦で亡くした経験を持つが、「軍の関与はまぎれもない事実だが、軍命令は推論にすぎない」との立場だ。

 また、泣き声で米軍に見つからないよう、「日本軍により幼児が殺された」とする教科書記述にも異説がある。

 匿名を条件に取材に応じたある地方議員は「老人会でのひそひそ話に耳を疑ったことがある。子供が軍命令で殺されたとして遺族年金をもらっている人について『あの人、本当は自分で殺したんだよね』と話し合っていた」と語る。

 ■米軍施政の呪縛

 集団自決の「軍命令」説を最初に報じたのが、地元紙、沖縄タイムス編の「鉄の暴風」(朝日新聞社、昭和25年初版発行)。作家、大江健三郎氏の「沖縄ノート」など、軍命令を事実と断定する著作の多くは、この「鉄の暴風」の記述・内容を引用したものだ。

 ただ、明星大戦後教育史研究センターの勝岡寛次氏は「この本は全然実証的ではない」と強調する。確かに、同書は集団自決の現場での取材は行っていない上、生存者について「不明死を遂げた」としたり、事実関係が違っていたりするなどの不備が少なくない。

 勝岡氏は同書が米軍施政下の沖縄でラジオ朗読されて広まった経緯や、当初は米軍の「高いヒューマニズム」をたたえていたことなどを例示。連合国軍総司令部(GHQ)が日本人に戦争に対する罪悪感を植えつけた宣伝工作「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」との共通点を指摘し、こう語る。

 「この本の歴史的意味は、沖縄県民の敵を、米国から日本軍へと置き換えさせたことだろう」

 沖縄在住のジャーナリスト、恵隆之介氏は「沖縄では、軍命令を疑う意見は地元紙に一切掲載されず、今も言論統制が行われているのに等しい。戦後、米陸軍第8心理作戦部隊が『沖縄県民は日本国民に差別された。その帰結が沖縄戦の悲劇だ』と反日宣伝を徹底したが、それが定着してしまった」と話す。

 ■慰安婦問題との類似

 今年3月の教科書検定では、集団自決での日本軍の「強制」を示す記述は削除修正されたものの、軍の関与自体はそのまま残っている。

 にもかかわらず、批判が相次ぐことに対しては、「慰安婦問題のときと同じだ」(自民党議員)との指摘がある。

 慰安婦問題では、当初は強制連行の有無が争点だったのに、強制連行の証拠が見つからないと、今度は軍関与自体が問題だとすり替えられた。「『従軍慰安婦』という言葉は戦後の造語であり、当時はなかった」と指摘した学者や議員は、「従軍慰安婦(の存在)を否定する人たち」(土井たか子元衆院議長)とレッテルを張られた。

 平成17年度の高校教科書検定の慰安婦記述では、旧日本軍による強制連行に検定意見が付いたものの、主語のない強制連行の記述は認められた。文部科学省内には「軍の強制性が争われた意味では構図が同じ。今回の政府対応次第で、慰安婦についての軍命令復活を訂正申請する出版社が出てくるだろう」(幹部)との危惧(きぐ)もある。

 ■検定制度揺るがす

 渡海紀三朗文科相は、記述訂正の可否を審査する教科書検定審議会について、検定意見の修正にも柔軟な構えだ。ただ、これには「中国や韓国から同様の働きかけがあったら拒否できるのか」と懸念する声が出ている。中立・公正という検定制度の趣旨をないがしろにすれば、今後、中韓の教科書訂正要求をはねつける根拠は失われかねない。

 「すべての集団自決に軍が関与したというのは不正確だ。大臣に(検定を)撤回する権限があるほど日本は怖い国ではない」

 前文科相の自民党の伊吹文明幹事長はこう指摘し、政治介入はしない方針を貫いていた。一方、後任の渡海氏は「(沖縄県民大会には)あらゆる党派、階層が参加した。従来とは違う。(訂正申請には)真摯(しんし)に対応したい」と方針を転換した。

 教科書執筆者の一人は「沖縄戦の犠牲に対する共感や配慮は必要だが、検定とは分けて考えるべきだ。政府の介入は教育行政において『不当な支配』を禁じた教育基本法第16条に抵触するのではないか」と批判する。

 一方、検定撤回運動を続けてきた沖縄県の教職員組合が6月に作成した資料は「撤回は文科相の政治判断であれば可能。執筆者が訂正申請すれば(撤回の)可能性が生ずる。その時、世論が関係する」と記していた。現実はこのシナリオ通りに進んでおり、政府が対応を誤れば将来に禍根を残すことになる。

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