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抗菌薬の適正使用に向け認定制度スタート
事前申し込み多数、予想以上の反響
日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医認定制度審議委員会
2007.10.15
日本化学療法学会が今年6月に新設した「抗菌化学療法認定医・指導医認定制度」が反響を呼んでいる。25日に東京で、29日に神戸で行われる「抗菌薬適正使用生涯教育セミナー」には、予想を大幅に上回る数の参加申し込みが寄せられた。事務局は当初、東西両会場の定員をそれぞれ250人としていたが、1日現在で、東京の申込数は450人、神戸の申込数は360人に達した。今後、さらに申し込みが増えることも予想され、学会事務局では急きょ、セミナー会場をより大きな場所に変更するなどの対応を取っている。
● 耐性菌対策で学会が人材育成
日本化学療法学会の「抗菌化学療法認定医・指導医認定制度」は、抗菌化学療法について優れた知識と適正使用の経験を持ち、さらにほかの医師や医療関係者らに指導できるレベルの医師を育てるのが狙い。
同学会が開催する「抗菌薬適正使用生涯教育セミナー」を受講し、単位数が一定に達した会員医師を「認定医」に、さらに日本感染症学会の「感染症専門医」とICD制度協議会の「ICD」(感染管理専門医)の資格をあらかじめ持っている会員医師を「指導医」に認定するという仕組みだ。非会員の医師やそのほかの医療従事者が教育セミナーを受講した場合には、修了証を発行し、一般医家のボトムアップを目指す。
感染症関係の既存の認定制度である「感染症専門医」は、感染症の病態や診断・診療法などを幅広くカバーしている。また「ICD」は、院内感染対策を重視した資格となっている。ただ、これまでは耐性菌対策の観点で系統的に教育する場が学会内になかった。日本化学療法学会が新設した「認定医・指導医制度」は、抗菌薬の適正使用に焦点を当てているのが特徴だ。
● 三笠委員長 抗菌薬の選択と適正な投与方法・投与量を考えるべき
最近は、市中感染や院内感染を問わず、さまざまな耐性菌による感染症例が報告されるようになっている。多剤耐性緑膿菌(MDRP)や基質特異性拡張型β−ラクタマーゼ(ESBL)産生菌、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)やβ−ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)などがその代表例だ。
耐性菌出現の背景には、抗菌薬の乱用問題がある。最近では、乱用防止のために広域抗菌薬の使用制限や届出制を導入する病院も多い。ただ、「抗菌薬の適正使用」という名目の下で、こうした画一的な自主規制を敷くことに対して、反対の声も上がっている。
日本化学療法学会で抗菌化学療法認定医認定制度審議委員会の委員長を務める三笠桂一氏(奈良県立医科大付属病院感染症センター長・教授)は、「感染症の診断と原因微生物の同定、そして抗菌薬の選択と適切な投与量・投与方法を考える思考プロセスこそが重要だ」と指摘する。 病院や地域全体で抗菌薬の使用状況をモニターし、コントロールすることが「マクロの抗菌薬適正使用」だとすれば、目の前の患者に適正な抗菌薬を適正な方法・量で投与することは、「ミクロの抗菌薬適正使用」だといえる。
三笠教授は、「むしろミクロの抗菌薬適正使用こそ大切だ」と力説する。「抗菌薬を選択した理由が明確か。効果を最大限に発揮する投与方法を用いているか。抗菌薬による無用なプレッシャーを長期間持続させないよう、適正に抗菌薬治療を終了させているか。原因微生物と薬剤感受性が判明した段階で、より狭域な薬剤に変更しているか。こうした点をきちんと考えることが重要だ」と述べた。
ただ、抗菌薬は感染症の非専門医に使われることも多い。実際には、推定される感染症名や原因微生物などの重要事項をカルテに記載せず、使い慣れた抗菌薬を漫然と投与するケースも多くみられるという。さらに最近では、PK/PDを活用して、時間依存性や濃度依存性といった抗菌薬の特性に着目しながら効果を最大限に高める概念が普及しつつある。
だが、現実的には診療側の人員問題などもあり、必ずしもベストの医療を提供できているとは限らない。日本化学療法学会が「抗菌化学療法認定医・指導医認定制度」をスタートさせた狙いは、こうした現状を少しでも改善しようところにある。
● 「専門医」を求める厚労省 感染症分野の人材育成が急務
では「認定医・指導医制度」のメリットとはなにか。三笠委員長は、「認定医や指導医という資格に、何らかの特殊なインセンティブがあるわけではない」と話す。ただ、厚生労働省が新規抗菌薬の使用を感染症の専門家に限定し始めたこともあり、適正使用に対する医師の認識が徐々に高まりつつある。このことが、教育セミナーの反響として現れているようだ。
国内で初めて添付文書に“専門家”のしばりが付いた抗菌薬は、2001年5月に発売されたファイザーのオキサゾリジノン系合成抗菌剤「リネゾリド」(製品名:ザイボックス)だ。同剤の添付文書「用法・用量に関連する使用上の注意」の欄には、「本剤の使用にあたっては、耐性菌の発現等を防ぐため、次のことに注意すること。(1)感染症の治療に十分な知識と経験を持つ医師又はその指導のもとで行うこと」という文言が記載されている。
リネゾリドの発売以降、耐性菌対策の観点で、厚労省が抗菌薬に同様のしばりを付けるケースが増えた。こうしたことを背景に、「認定医や指導医の資格を取ることで、感染症に対する見識を深められば、処方の選択肢が広がり、結果的にインセンティブになるだろう」と三笠委員長は指摘している。
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