2006. 7. 6
2006年4月、厚生労働省医薬食品局安全対策課長通知に基づき、15員環マクロライド系抗菌薬アジスロマイシン水和物(商品名:ジスロマック)の添付文書が改訂され、重大な副作用に「肝炎」「白血球減少・顆粒球減少・血小板減少」「横紋筋融解症」が追記された。
経口マクロライド系抗菌薬は、その構造から14員環、15員環、16員環に分類され、現在10薬剤が臨床で使用されている。マクロライド系抗菌薬は、細菌に対して殺菌的に作用するセフェム系及びニューキノロン系薬剤などと異なり、静菌的に作用するのが特徴である。また、耐性菌出現頻度は高いものの、本来の抗菌力以外にも、免疫賦活作用やバイオフィルム産生菌への浸透性などに優れていることが明らかになり、難治性慢性気道感染症のびまん性汎細気管支炎(DPB)に対する少量長期投与療法にも使用されている。
このマクロライド系抗菌薬のうち、最も新しいのが、2000年6月に発売されたアジスロマイシンである。同薬は、血中半減期が60〜80時間と長く(クラリスロマイシンの血中半減期は6時間)、1日1回3日間の投与で強い抗菌力が7日間持続することが最大の特徴である。またアジスロマイシンは、ほかのマクロライド系抗菌薬と同様、マイコプラズマ、クラミジアなどの非定型型肺炎の起因菌に有効であるほか、他薬で抗菌力が弱いとされていたインフルエンザ菌にも強い抗菌力を発揮する。こうした特徴が評価されて広く臨床で使用されており、2005年度には年間使用患者数が3000万人に達している。
今回、アジスロマイシンの添付文書に追記された重大な副作用は、2003年4月から2006年3月までの副作用報告(因果関係が否定できないもの)の集積に基づくものである。具体的には、死亡例はないものの、肝炎が5例、白血球減少・顆粒球減少・血小板減少が4例、横紋筋融解症が5例が報告されていた。いずれの症例においても、アジスロマイシン投与との因果関係は明確でないが、これらの副作用は、過去に14員環のマクロライド系薬剤(クラリスロマイシン)でも報告されていたものであり、何らかの関連性があるものと推測される。なお、これら副作用の代表的な症例が、厚生労働省『医薬品・医療機器等安全性情報 No.225』(2006年6月)に紹介されている。
ちなみにアジスロマイシンの重大な副作用は、発売当初はショック、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死症のみであったが、その後、2001年3月には肝機能障害、黄疸、偽膜性大腸炎、2001年11月には間質性肺炎、好酸球性肺炎、2002年5月にはアナフィラキシー様症状、2003年9月にはQT延長、心室性頻脈(Torsades de pointesを含む)、2004年10月には急性腎不全が追加されている。
アジスロマイシンは、前述の通り、血中薬物濃度が長時間維持されることが特徴であるが、万が一重篤な副作用が発現した場合には、対処が難しくなることも考えられる。投与にあたっては、投与可能な患者かどうかを慎重に検討した上で、起こりうる副作用の初期症状などについて十分に把握し、投与中の患者の状態を常に観察しておく必要がある。
(北村 正樹=慈恵医大病院薬剤部)