【ワシントンIPS=スラバニ・ロイ、10月4日】
米連邦最高裁が同国で行われる全ての薬物による死刑執行について違憲審理を行うと発表したことで、国内では死刑モラトリアム(執行停止)の機運が徐々に高まりを見せている。
死刑執行率が最多のテキサス州では2日、同州刑事上訴高等裁判所(Texas Court of Criminal Appeals)がエリベルト・チ(Heliberto Chi)死刑囚への一時的な執行延期を認めた。
『テキサス死刑廃止連盟(Texas Coalition to Abolish the Death Penalty)』のリック・ハルペリン(Rick Halperin)氏は「これまで最高裁の出した判例に従ってこなかったテキサス州の裁判所が執行停止に応じたのは驚くべきことである」と語った。
ケンタッキー州では、ラルフ・ベイズ(Ralph Baze)とトーマス・クライド・ボウリング・ジュニア(Thomas Clyde Bowling Jr.)の2人が、致死薬注射による処刑は時間を要し苦痛を伴うため、合衆国憲法修正第8条で禁じている『残酷で異常な刑罰』に違反するとして最高裁に対し死刑を停止するよう上訴している。
専門家は、最高裁が処刑方法としての致死薬注射の合憲性について違憲審理を終えるまで国内の死刑の執行停止は今後も相次ぐだろうと見ている。
一方、国連総会ではEUが提案している全世界で死刑のモラトリアム(執行停止)を実施する決議案がまもなく国連総会に提出される。米国は同決議案には強く反対すると見られているが、最高裁の発表を受けた形で死刑執行を見合わせる州も増えているため、米国の強固な態度が今後変化することも考えられるであろう。
しかし、米国の死刑制度反対論者は、最近の死刑執行を見直す動きは『一時的な』傾向であるとして慎重な態度も示している。
ハルペリン氏は「最高裁は死刑制度に賛成であるため、『執行の延期』といった措置が取られる可能性はあるものの、『死刑廃止』の実現は難しいだろう」とIPSの取材に応じて語った。
死刑執行の停止が相次ぐ米国の現状について報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=松本宏美(Diplomatt)/IPS Japan浅霧勝浩
IPS関連ヘッドラインサマリー:
米国:死刑中止に奔走 若き弁護士たち
処刑失敗で米国に死刑見直しの議論
米国の死刑制度に関連する新たな裁定
(IPSJapan)
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ワシントンIPSのスラバニ・ロイより、死刑執行の停止が相次ぐ米国の現状について報告したIPS記事。(IPS Japan浅霧勝浩)
資料:Envolverde
IPS欧州総局による「死刑制度」取材特集コーナーはこちらへ。本特集取材事業は欧州連合の支援を得てIPSが実施しています。(IPS Japan 浅霧勝浩)
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