2007/10/11 09:50
金型や素形材製造の権威として著名な中川威雄氏に寄稿をしてもらった。2007年10月8日号のワールド・レポート「中国のモノづくり産業から日本の先行きを考える」である。この寄稿は,刺激的な指摘をいくつか含んでいる。その中の一つが「高級品こそ中国で造る時代が訪れるのではないか」という警鐘である。
ここでいう高級品は,高価格品を指す。高価ならばコストが高い日本でも割に合う局面がありそうと私自身期待していたところだが,現実は甘くない。三菱電機の10万円を超える炊飯器も,主要な工程は中国工場が担う。これは主要な工程が手作業であり,国内工場に担わせると採算が合わないためとみられる。中川氏が非常に重くとらえているのも,この点,すなわち高級品ほど人手に頼る工程が多くなるというかなり普遍的な事実である。
人手に頼る工程における品質で日中に差がなくなれば,中国側は完全に優位に立つ。安さはもちろん早さ(短納期)でも工場の24時間稼動などを背景に上回るからだ。品質で追い付く可能性は,Apple社やNokia社などが使っている中国産の金属筐体を見れば,高いといわざるを得ない。
中川氏は「高級品こそ中国でという流れは,手作業が多い高級衣料品やスポーツ用品でとっくに定着している」という。この発言に私は,思わずハッとした。結局のところ,高級電気製品なら日本で造っても割に合うという考えは「電気製品は特別,衣料品のような日用品とは違う」という意識の現れだったのかもしれない。こうした特別意識は,日本と中国の電機産業が競争・協調していく上で,あらかじめ壊しておくべきものの一つだろう。
壊すべき対象は,少なくとももう一つありそうだ。日本人が時折見せる過信である。中川氏は寄稿にこう記した。
――産業とそれを支える技術は,先進国から発展途上国に移転する性質を持つ。産業革命以来の歴史を見れば,それは明らかだ。時々「この技術は中国にマネできるはずがない」と豪語する日本人に会うが,どうして日本だけが例外になれようか。特定の国・地域の人にしか獲得できない技術や技能など存在しない。
特別意識を捨て去ることで,少しでも本質に迫った記事を今後執筆していきたい。
■お知らせ
Tech-On! Chinaフォーラム開催
中国のFPD産業とグローバル企業を知る好機。華為や聯想が講演。広東省の幹部や第一線の産業アナリストも登壇。10/26,横浜にて開催。10/17まで早期割引適用。10/24(テレビ)及び10/25(携帯/PNDのユーザー体験)のセミナーとの同時申し込みでも割引。申し込みはこちらまで。
● 本誌記事を全文検索で探すことができます。
● 探した結果は,本誌記事とほぼ同じ体裁のPDFファイルとしてダウンロードできます。
● 1カ月あたり20ページ分までのダウンロードは定期購読者なら無料です。
アーカイブサービスとは
モバイル機器からハイブリッド車まで。次世代2次電池と燃料電池のすべて(6月30日発行)
16ビット・マイコン搭載ボード(組み込み速修キット)付き(6月30日発行)
ソフトウエアにとって最も大切なものは何でしょうか。その答えが、しっかりとした設計・検証の方法論であることは論を待ちません。本書は、専門記者が最前線で取材・執筆した記事と、専門の技術者による講演内容をまとめ、組み込みソフトの開発方法論を中心に構成しました。
ディスプレイを搭載する機器はすべてテレビになる――。2006年4月から国内で始まったワンセグは,あっという間に普及し始めた。ワンセグの次の一手が,製品開発現場の大きなテーマである。課題は二つ。一つは,日本で培った開発ノウハウを海外へ展開することである。放送を受信する端末の主戦場は,今後海外に移るだろう。もう一つは,携帯機器・移動機器向け放送のマルチメディア化である。より大容量な放送として,蓄積型を交えた新しい放送が登場してきた。
日程 : 2007年10月24日
会場 : パシフィコ横浜
主催 : 日経BP社
新しいタイプの個人向け情報機器として国内の市場でも注目され始めたスマートフォンとPND。一般的な携帯電話機より大きな画面を持ち,処理能力が高く,ソフトの追加によって機能を増やせる自由度が高いという共通点を持つ。こうした機器の成功のためには,ユーザーをワクワクさせる「ユーザー体験」を,機器とサービスの両面からどう作り込むかが鍵になる。
日程 : 2007年10月25日
会場 : パシフィコ横浜
主催 : 日経BP社
間近に迫る北京オリンピックと上海万博に向けて,新たな日中ビジネス・チャンスをどうつかむべきか。今回は,日中両国の政府と業界関係者,企業経営者及び市場専門家,有識者の方々が一堂に会し,中国のマクロ経済から,FPDテレビ,PC,通信などの製造技術と市場の最新動向まで,多方面にわたって紹介する。
日程 : 2007年10月26日
会場 : パシフィコ横浜
主催 : 日経BP社
本来であれば「史上最悪のプロジェクトに挑む〜硫黄島決戦と栗林中将から学ぶ」の「その5」をお届けするはずだが、今回は「番外編」を公開する。
日本は世界一の成金である。これは昨年12月に発表された国連大学の統計から明らかになった。スイスも米国も抜いて,ぶっちぎりの金持ちである。確かに日本中に高級ブランド店が溢れている。
「本当に困ってるんです」。先日、あるアメリカ人ジャーナリストの方にお会いしたら、いきなりグチをこぼされた。何でも、アメリカの本社から「日本のゲームショウを取材せよ」との指示を受けたらしいのだが・・・
転職する際には,これまで在籍してきた会社になるべく迷惑を掛けたくない,と多くの技術者は思うだろう。ところが技術者の転職には,きれいごとばかりは言ってられない場合もある。
この8月に「経済財政白書」が発表されました。昔、「経済白書」と呼ばれていたものです。私は白書が好きで、いろいろな白書を読むのですが、中でも今年(2007年)の「経済財政白書」はなかなか面白い内容でした。