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NIKKEI NET

社説2 混乱踏まえ検定制度見直しを(10/7)

 教科書検定制度のほころびが露呈したのではないか。沖縄戦の際に起きた住民の「集団自決」に、日本軍の強制があったとした教科書の記述をめぐる混乱だ。文部科学省の検定撤回を求め、沖縄では大規模な県民大会が開かれた。これを受けて「強制」記述は復活しそうである。

 問題になっているのは、来春から高校2年生が使う日本史教科書だ。「そのなかには、日本軍に集団で『自決』を強いられたものもあった」などの記述に初めて検定意見が付き、執筆者は、軍の関与をぼかして「『集団自決』においこまれた住民もあった」などの表現に変えた。

 たしかに「集団自決」に軍上層部の意思が働いていたかどうかは不明だ。一方で、離島では軍が配った手りゅう弾で住民が集団死したなどの史実もある。一切の強制はなかった、と断定できる証拠はない。

 原文の多くも、それらを勘案し、軍の強制がすべてだったとは書いていない。にもかかわらず「強いられた」などの表現を軒並み削らせたのは、いかにも不用意だった。沖縄県民の反発は理解すべきである。

 県民大会の盛り上がりなどを背景にした政治的パワーが、歴史記述に影響を及ぼす展開には違和感も伴おう。もっとも今回初めて「集団自決」に意見が付いた事情も判然とはしない。厳正であるべき歴史記述が、どこからであれ、圧力や思惑に翻弄(ほんろう)され、これが前例になるとすれば好ましくない。

 文科省は検定意見自体は撤回せずに、教科書会社が修正を申請する形での決着を目指している。しかし、こうした混乱を繰り返さないためには、硬直的で不透明な検定制度を抜本的に見直す必要がある。文科省には外部の有識者で成る検定調査審議会が置かれているが、実際には多くの意見は事前に省内の調査官が用意しているという。まず検定過程をガラス張りにするのが急務だ。

 本質的には、教科書に国が深く関与し、画一的で重箱の隅をつつく形の検定を続けていることが今回のような問題の根底にある。それを踏まえ、検定をもっと弾力化すべきだろう。少なくとも、義務教育ではない高校の教科書では検定廃止・自由化の道を探る時期に来ている。

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