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犯罪被害者:遺族の悲しみを子どもらに 公費で講演会支援

家族が受けた被害や自身の体験を語る犯罪被害者家族の糸賀美恵さん=東京都新宿区で、馬場理沙撮影
家族が受けた被害や自身の体験を語る犯罪被害者家族の糸賀美恵さん=東京都新宿区で、馬場理沙撮影

 警察庁は来年度から、犯罪被害者の遺族に悲しみや怒りを子どもたちに語ってもらう事業「命の大切さを学ぶ教室」を始める。犯罪を許さない社会づくりをするのが目的で、遺族による講演会を公費で支援する。来年4月から五つの警察本部で行い、将来的に全国の警察本部での実施を目指す。

 既に来年度の概算要求で関連予算約900万円を盛り込んだ。事業は若者を対象としているのが特徴で、被害者の痛みを子どものうちから知ることで、犯罪に手を染めない意識づくりに有意義としている。大学生に対しては講演会に加え、大学の講義で被害者支援に関するテーマを取り上げてもらうことや被害者支援事業へのボランティア参加を働きかける。

 99年に少年らによる集団暴行事件で次男(当時18歳)を亡くし、今夏岡山県内の中学校で講演会を行ったNPO法人「おかやま犯罪被害者サポート・ファミリーズ」の理事、市原千代子さん(53)は「生徒から『子どもを失った親がどれだけ悲しい思いをするのかよく分かった』『命は自分だけのものではないと感じた』など大きな反響があった」と話し、警察庁の取り組みを歓迎する。

 国が後押しして被害者遺族らに体験を語ってもらう試みは、刑務所や少年院で矯正教育として行われている。加害者に被害者の視点に立って、自身の犯罪を反省させる効果があるとされる。

 警察庁は「若いころから、犯罪の悪質さと被害者に与える悲しみの大きさを学んでもらい、これからの安全・安心な社会の礎になってほしい」と話している。【遠山和彦】

 ▽山上皓(あきら)・全国被害者支援ネットワーク理事長(東京医科歯科大名誉教授)の話 若い世代が犯罪被害者の遺族らから直接、話を聞き、気持ちを通わせて心の痛みを感じることは命の大切さを知る有効な方法だ。国内の被害者対策は被害者本人のケアなどの面は欧米並みに充実しつつあるが、今後はこうした教育面の取り組みが重要になる。

 ◇「被害者の痛み分かって」

 「肉親を犯罪で失うつらさ、分かって」。殺人事件で長男を失った社団法人「被害者支援都民センター」(東京都新宿区)の糸賀美恵さん(53)=練馬区=は、約20回の講演で命の大切さを訴え続けている。警察庁が来年度から公費で講演会などを実施する方針を決めたことに「若者に話す機会が増える」と期待している。

 糸賀さんの長男(当時25歳)は02年5月、練馬区の公団住宅に一緒に住んでいた女(同26歳)に首などを刺されて殺害された。女は自殺願望から長男を道連れにしようとサバイバルナイフで数カ所刺していた。

 糸賀さんは事件のショックで3カ月は外出もままならないほどの状態が続き、胃痛になるなど体調も崩したという。

 体調回復後、同センターの活動に加わる中で「二度と自分と同じ思いをする人を出したくない」との思いが募り、05年から息子を亡くした親の悲しみ、命の大切さを説く講演を始めた。センターのシンポジウムなど約20回の講演を行い、被害者の遺族がどんなつらい思いをするかを伝えている。

 講演中に事件当時のことが脳裏によみがえり、涙を流すなどつらいこともある。しかし「自分が命の大切さを伝えなければ誰が伝えるのか」と思って、講演を続けているという。

 昨年は上智大学のキャンパスで学生相手に講演。学生からは「犯罪被害者がこんなにつらい思いをしているとは知らなかった」と反響があった。糸賀さんはこれまで中高校生を対象に講演を行ったことはないが、「これから人格が形成されていく若い人にこそ自分の思いを聞いて考えてほしい」と警察庁による新事業に期待する。

 自らも長男をひき逃げ事故で失った同センターの大久保恵美子事務局長も「犯罪被害者の痛みを社会全体で理解することが大切。中高校生のうちからの教育はとても意義のあることで、ぜひ全国に広がってほしい」と話している。【遠山和彦】

毎日新聞 2007年10月9日 15時00分

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