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若者に広まる仏教 ファッション化の一方で癒しも
仏教が若い世代から見直され始めている。豊かな時代にあって日常生活から宗教色が薄れ、葬式や法事でしか僧侶を見なくなって久しいが、それだけに端正な仏像が新鮮に受け止められ、座禅が一種の“ファッション”となっているようだ。だが一方で、仏教に触れる中で、現代社会に疲れた心を癒やしている若者も増えているという。(田辺裕晶)
◆ライブハウス化
東京・新宿にある「経王寺」(互井観章住職)は平成17年10月から、本堂を使って、さまざまな音楽ジャンルの若手演奏家やダンサーらがパフォーマンスを行う「プンダリーカ(蓮の花)・ライブ」を開催している。
観客は中高年に混じって10〜20代の若者も多い。携帯電話のカメラで住職らとのツーショットを求める高校生の姿も。
互井住職は、若いころはロック音楽に親しみ、今は仏の徳をたたえる歌「声明(しようみよう)」を歌う声明師として後進の指導にあたっている。
約10年前から継続的に境内で声明と雅楽のコンサート開いているが、「この5年ほどで声明ファンだけでなく、若い世代をはじめ、一般の人たちが聞きに来るようになった」。そんな中で知り合った20〜40代のパフォーマーらから、「お寺の雰囲気を生かしたライブをしたい」と頼まれたのがライブのきっかけだ。
互井住職は毎回終演後、「僧としてその日のライブに何を感じたか」を観客に伝えている。法話もライブのような開放的空間の方が「話がすんなり(観客の)気持ちに入る」といい、「苦しい世の中を生き抜くためのヒントとして仏教を伝えたい」と話している。
◆出版物も続々と
東京国立博物館が昨秋、特別展「仏像 一木にこめられた祈り」に合わせて開催した、みうらじゅんさん、いとうせいこうさんの「仏像トークショー」では、受け付け開始からわずか15分で約350席が完売した。
多くが20〜30代の若者だったという。同館の井上洋一事業企画課長は、「仏像の持つ癒やし効果が若者たちに受け入れられている。以前とは違い、生活に身近な存在としてとらえられている」と指摘する。
出版界でも数年前から写真やイラストを多用した若者向けの分かりやすい「仏教の本」がよく売れている。
仏教関連の出版物が多い春秋社(東京都千代田区)でも、12月上旬をめどに、イラスト入りの「かわいいぶつぞう ふしぎなチカラ(仮題)」を発売する予定だ。
これまで仏教の本を出さなかった出版社も進出を始めているという。
春秋社編集部の桑村正純さんは「アニメに慣れ親しんだ世代だけに、ビジュアルを通じて直感的に仏教をとらえている」と指摘している。
◆美容や健康から
仏教の中でも座禅は流行のヨガにつながる“ファッション”として受け止められている面もあるとされる。また一方で、若者たちは仏教に触れる中で、仏教を心の支えに必要なものと考え始めているようだ。
武庫川女子大学の藤本憲一准教授(メディア論)は、「今の若者は食、美容、健康を追い求めるなかで、仏教の座禅や呼吸法、断食、精進料理などにまず注目し、次に思想の持つ癒やしへとゆるやかに移行している」と指摘する。
経王寺の互井住職は「(寺の)敷居の高さを取り除くには、『ここで遊べる』と思ってもらえるぐらいでちょうど良い。それぐらい自由度がないと、(日ごろ仏教に接しない)一般の人には(仏教を)伝えられない」と話している。