話題

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録 Yahoo!ブックマークに登録
この記事を印刷
印刷

公営住宅:国が入居継承を厳格化「親の死後、子は住めず」

東京都渋谷区の「笹塚二丁目アパート」。都営住宅は8月25日から、継承資格が厳格化された
東京都渋谷区の「笹塚二丁目アパート」。都営住宅は8月25日から、継承資格が厳格化された

 国が05年、都道府県に対して公営住宅の入居継承資格を厳格化するよう求めた通知を巡り、入居者に不安が広がっている。入居資格は従来、親から子へ継続できたが、通知は「入居機会の公平化のため」に継承権利者を「原則、配偶者のみ」に限定した。しかし、低家賃で住める公営住宅は、収入が少ない母子家庭や障害のある子供を持つ家族も少なくない。親たちは「自分の死後、子供は住む所がなくなってしまう」と訴えている。

 「私に何かあったら、娘と孫はどうすればいいの」。東京都渋谷区の都営住宅「笹塚二丁目アパート」に住む木村繁子さん(83)は肩を落とす。

 長女房江さん(54)と孫の隆士さん(25)と3人暮らし。房江さんは糖尿病で、毎日4回インスリン注射をしながら週6日、スーパーでパートをこなす。隆士さんは知的障害4度。一時は福祉作業所を利用したが、障害者自立支援法では受け取る工賃より自己負担の方が高額となるため、今は通っていない。

 房江さんのパート代や繁子さんの月12万円の年金などで、月収は多くて30万円程度。生活費や月2万円弱かかる房江さんの治療費でほぼ消える。繁子さんは自分が死亡し年金収入がなくなっても、家賃が1万円超の都営住宅なら、娘と孫の2人で何とか暮らしていけると思ってきた。

 ところが、国土交通省は05年12月、継承権利者を「原則、現に同居している配偶者」に限るよう都道府県に通知した。これを受け、都は継承制度を改正し、8月25日に施行した。結果、房江さんは継承できなくなった。

 通知は、高齢者や障害者など「特に居住の安定を図る必要がある者」には例外的に、配偶者以外への継承を認めるが、判断は都道府県に委ねられている。都の場合、知的障害4度は「軽度」とみなされ、隆士さんは特例の対象外だ。繁子さんは「娘と孫はホームレスになれと言うのでしょうか」と訴える。

 こうした例は都営住宅に限らない。鳥取県倉吉市の県営住宅では5月、母子家庭の母親が19歳と17歳の息子2人を残し、がんで他界した。大学浪人中の長男は10月に成人になるため、その後半年以内に兄弟は退去しなければならないという。親族は「同じようなケースが今後、全国で相次ぐのでは」と懸念する。

 ◇「親子間の継承は不公平」

 国土交通省によると、公営住宅の戸数は近年、全国約220万戸で横ばいだが、05年度の応募倍率は全国平均9.9倍で、97年度以降8年連続で上昇した。継承申請は04年度、東京・大阪で7424件、子供への継承は2割を占めた。国交省は継承資格の厳格化を「長年、同一親族が居住し、入居機会の公平性を損なっている」と説明する。

 東京都は通常で倍率30倍前後、高い時は50倍に上る。都担当者は「親子間の継承は不公平。重度の障害者や高齢者は例外中の例外だ」と指摘する。親を亡くした子供については「成人すれば自立できる。『20歳過ぎだが収入がない』と言われても、無収入で家賃を払えなければ、そもそも公営住宅に住めない」と特例扱いを否定する。

 住宅政策と社会保障の問題に詳しい大本圭野・東京経済大経済学部教授は「公営住宅の高い倍率は、国の経済政策で格差が拡大し、貧困層が増えた結果。継承資格の厳格化は、社会の不公平は放置して限られた牌(ぱい)を低所得者間で競わせるやり方で、公平とは言い難い。厳格化が進めば、『住宅のセーフティーネット』という公営住宅の意義がなくなる」と指摘する。

毎日新聞 2007年10月10日 15時00分

話題 アーカイブ一覧

ニュースセレクトトップ

エンターテインメントトップ

ライフスタイルトップ

 

おすすめ情報