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2007年10月09日 22:00

診察室は不要:「ネット診療と往診」サービスがNYで開始

待合室も、診察室もない「病院」が、ニューヨーク市ブルックリンで始まった。定額を払うと、何度でも医師によるオンライン診察を受けられるほか、往診もしてもらえる。サービスの対象は、クリエイティブな仕事に就いていて医療保険に入っていない18〜40歳といった層だ。

Julie Sloane 2007年10月09日


ブルックリンのウィリアムズバーグ橋でポーズを取るJay Parkinson医師。同医師はほとんどオンラインのみで診察を行なっている。
Photo: Noah Kalina

Jay Parkinson医師は9月下旬に、ブルックリンのウィリアムズバーグ地区で開業した。だが、この「病院」には待合室も、蛍光灯が照らす診察室もなく、おまけにほとんど経費もかかっていない。同医師は診察をオンラインで行なっているのだ。診察を受けたければ、インスタント・メッセージ(IM)か電子メールを送るといい。

Parkinson医師の診療は、今では珍しくなった往診と、きわめて21世紀的な技術とを組み合わせたものだ。

年会費は500ドル。同医師はまず、登録した患者の自宅を訪れて問診を行ない、その後必要があれば、年2回までは追加費用なしで往診に応じる。

だが患者はこの他に、平日午前8時〜午後5時までの時間帯ならいつでも、何度でも、IMまたは電子メールで診察を受けられる。

Parkinson医師は本業の傍ら、アマチュアカメラマンとしても活動しており、『Flickr』の同医師のページには熱心なファンがついている。

Parkinson医師は、ジョンズホプキンス大で、公衆衛生学の修士号を取得した後、ペンシルベニア州立大学で博士号(医学)を取得。

サービスの対象は、ブルックリンの、クリエイティブな仕事に就いていて医療保険に入っていない18〜40歳といった層だ。

「ニューヨークに住むアーティストの多くは、フリーランスなので保険に入っていない。こうした人たちは若いし、インターネットに慣れている。いったん問題を把握した後は、電子メールやIM、ビデオチャットでフォローすればいい。これらの人の大多数は、何度も実際に診察する必要はない」と同医師は語る。

Parkinson医師は、ウェブベースの電子カルテサービス『Life Record』で患者の健康状態を記録している。

これらの情報には、同医師の『iPhone』からもアクセスできる――たとえば夕食に出かけているときに、患者がいつもの薬の処方箋を求めてきても対応できるという。在宅時の同医師は、『MacBook』の前に腰を据えている。

患者に画像検査や専門医の診断が必要な場合は、Parkinson医師は、独自に調べた診察費の安い医療機関に依頼する。

「この3ヵ月というもの、私はまるでスパイのようだった――この地域の大小2000もの医療施設に電話をかけて、診察費を問い合わせた」と同医師は言う。

診察費に重点を置いた網羅的なポータルサイトは存在しないし、米国では、保険加入者なら価格を気にする必要はほとんどないからだ。

そうして得られた結果はショッキングなものだった。家族に乳ガン患者の多い患者について、マンモグラフィー(乳房X線検査)の費用を問い合わせたところ、同じ医療行為でも価格には125ドル〜750ドルというばらつきが見られたのだ。

Parkinson医師の開業後まもなく診察を受けた人の1人に、Anne Bakerさん(本人の希望により仮名)がいる。Bakerさんは31歳のギャラリー経営者で、保険に加入していない。

全身に原因不明の発疹が出たBakerさんは、オンラインで同医師を知り連絡を取った。翌日、同医師はBakerさんの自宅アパートを訪ね、既往症を詳細に尋ねた。

「お医者さんに最初にかかるときに問診票に記入するのと同じようなものだけど、口頭でやる点が違う。先生はとても細かな点まで聞いてくれた。問診票では、ああはいかない」と、Bakerさんは言う。

Parkinson医師はBakerさんの発疹の原因を、化粧水へのアレルギー反応と診断し、その後は電子メールでフォローを行なった。

「(発疹が)治まったと先生にメールしたら、2日後に返事があって、その後の調子を尋ねてくれた。驚いたわ!」とBakerさん。

ただしParkinson医師は、まだ医療過誤保険に加入していない。開業したばかりだと、十分な数の患者を獲得するまで保険に入れないのはよくあることだ、と同医師は言うが、保険会社がこのIT依存の新ビジネスモデルを不安視している可能性もありそうだ。

だがParkinson医師はまったく逆に考えている。同医師のやり方なら、医師と患者の意思疎通が図りやすいので、保険会社は通常の医療機関よりも安心していいはずだ、不安だなんてとんでもないという意見だ。

Parkinson医師は婦人科の内診は行なわず、家族計画連盟病院など、診察費の安い医療機関に患者を紹介する方針だ。

開業してわずか4日間で、Parkinson医師は15人の患者と契約を交わした。このほかにもブルックリンの外に住んでいる人からの問い合わせがあったが、こちらは断わっている(ブルックリンの外まで往診するのは無理だからだ)。

区内を短時間で移動できるよう、スクーターの購入を検討中だ。往診は年に2回までは無料だが、3回目からは150〜200ドルの追加料金を課すことを計画している。もっとも、開業から日が浅いため、まだそのようなケースはない。

それでも、患者が困っている時には「おそらく何らかの例外措置を設けるか、医療行為の対価として作品を提供してもらうつもりだ」と、Parkinson医師は、才能豊かな患者たちに便宜を図る姿勢を見せた。

[日本語版:ガリレオ-江藤千夏/長谷 睦]

WIRED NEWS 原文(English)

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