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2007年10月08日(月曜日)付

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体育の日―こどもの体力は遊びから

 走る、跳ぶ、投げる。どれもスポーツの土台となる力だ。

 文部科学省が調べたところ、こどもの体力や運動能力はピークの86年度に比べると大きく落ちている。今回の分析では低下傾向に歯止めがかかる兆しも見えてきたが、ひと安心とはいえない。

 たとえばこどもの骨折は、10年ほど前の約1.5倍に増えた。転んでも手をついて体を守れない、受け身がとれない子がいる。内臓に脂肪を蓄えたメタボリック症候群の子も目立つ。

 何より心配なのは、遊びながら体をつくっていく機会や場所が減っていることだ。厚生労働省の調査で、こどもが遊ぶ場所としてあげるのは、自分の家か友だちの家が圧倒的だ。

 無理もない。道路が舗装され、空き地が消えた。小川もコンクリートでふたをされて久しい。児童公園はあっても、多くは木登りやキャッチボール、ボール遊びは禁止されている。

 こどもは遊び回るなかで体の機能を発達させていく。体力や運動能力の低下は遊び場の減少を反映しているのだ。

 冒険遊び場「のざわテットーひろば」は東京都世田谷区の住宅街にある。マンションが建つはずだったが、こどもたちに一部を開放してもらった。

 土の山を掘ってトンネルをつくる。木によじ登る。組んだ足場から飛び降りる。ホースで水をかけあう。土だんごをつくって、ぶつけっこをしたくなる。そんな場所だ。

 ここでは原則としてどんな遊びも自由だ。泥だらけにして、しかられることもない。危ないか、危なくないか。それもこどもが自分で判断する。

 こうした遊び場がいま、全国に大小約230カ所ある。10年間でざっと4倍。ささやかだが確実に増えている。

 「冒険遊び場」のほかにも、自然体験や農業体験を通して体を使わせる試みが広がっている。大学のなかには、遊びのリーダーを育てるコースを設けるところも出てきた。こうした機会づくりや人づくりを加速させたい。

 気になるのは、こどもの体力にも「格差」がみえることだ。

 スポーツ少年団や水泳教室など、スポーツに取り組む場は増えている。そこに通う子はいいが、問題はそういう場から離れているこどもたちだ。小学校に入る前から差が生まれているという。

 学校に上がると体育などによって差は多少縮まるが、学年が進むにつれて再び開く傾向が強いそうだ。授業では、できる、できないがはっきり出る。できないと恥ずかしい。それが積み重なって体育嫌い、スポーツ嫌いが生まれる。そうなってからでは遅い。

 思い切り遊んで体を使うことの楽しさを知り、自然に体力をつけていく。スポーツの多くは、そもそも遊びから始まっている。原点の遊びに返ることから、こどもの体力づくりを進めたい。

原油高と物価―指数に表れぬ値上げ圧力

 これでは「風が吹けば桶屋(おけや)がもうかる」ではないか。そう思った人も多いことだろう。

 原油相場が上がったから「カップヌードル」が値上げされるという。ほかにも缶詰、冷凍食品、菓子といった食品の値上げが相次いでいる。

 石油から作られる包装材や運送の燃料費がかさむからだけではない。原油高が農産物まで高騰させているのだ。

 それはこんな図式だ。

 原油高で国際的にバイオ燃料の需要が急増した。原料のトウモロコシが値上がりし、トウモロコシへの転作で作付けが減った小麦や大豆も値上がり。これらを使った飼料価格が上がって、豚肉や鶏肉まで上がる……。

 原油相場は1バレル=80ドルを超え、史上最高値の圏内にある。5年ほど前の3倍の水準だ。この影響で、1リットル=140円台の歴史的な高値にあるガソリンが、今月から一段と上がっている。電気料金や航空運賃にも早晩、原油高が反映されるだろう。今春以降に値上げされたトイレットペーパーやクリーニング代、レジ袋、マヨネーズなどの身近な価格が、再び上げられる可能性もある。

 ところが、経済指標にこの値上がりがすぐには反映されない。全国消費者物価指数(生鮮品を除く)は8月まで7カ月連続で前年同月比マイナスだ。

 一方では、日本銀行が先週発表した生活意識アンケートで、6割の人が1年前に比べて物価が「上がった」と答えている。生活実感と経済指標がかなり食い違ってきている。

 消費者物価指数には落とし穴がある。

 下落の最大の要因は、薄型テレビやパソコン、デジタルカメラなど技術革新が速いデジタル製品の指数が、1年前より2〜3割下がっていることだ。製品の性能が向上すると「価格下落」とされることがあるのだ。たとえば、性能が2倍となったパソコンの新製品が旧製品と同じ10万円で売られたら、指数では半分の5万円へ下落とみなされる。

 とはいっても、性能向上が指数計算のように家計の負担を軽くしてくれるとは限らない。たまに買うパソコンの値下がりの恩恵よりも、日常的に買う食品や生活用品の値上がりの影響の方が、多くの家計にとって重いだろう。低所得の世帯ほど日用品の負担は大きい。

 生活実感が物価指数と食い違うのにはそんな事情がある。

 小泉政権以来、政府は「デフレ脱却宣言」をめざしてきた。消費者物価指数をプラスにしようという目標だ。

 物価下落が続いてきたため、企業も小売店も値上げを打ち出しにくいムードが強かった。最近の値上げラッシュが、それを方向転換させるのかどうか。

 政府も日銀も、物価と景気の見方を変えた方がいいかもしれない。「二極化した物価」は、より複雑で高度な政策運営を求めているようにみえる。

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