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  ▼ 記者の視点
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増える若年女性の摂食障害
エスカレートする女性の痩身願望
2007.9.26

 現代女性の多くはスマートな身体にあこがれているようだが、特に10代、20代女性の痩身願望はエスカレートする一方のようだ。彼女たちが理想とするスタイルは、カリスマモデルの押切もえや蝦原友理が代表的な例だろう。
 しかし、昭和40年代生まれの記者からみると、どうみても彼女たちはやせすぎにみえる。実際、BMIでみると明らかにやせ(低体重)だ。同年代の方なら賛成していただけると思うが、歌謡曲全盛の昭和40年代・50年代のアイドルは健康的に太っていた。理想のスタイルを山口百恵に置くか、押切もえに置くかで、女性の標準体形の判断基準は大きく違ってくるはずだ。

 なぜ、若年女性の痩身願望の話を持ち出したかというと、最近、明らかにやせすぎの女性が増加し、それとともに摂食障害患者が増えている傾向があるからである。

 しかし、昨今の健康問題では、特に中高年男性に多いメタボリックシンドロームにばかり焦点が当たっている。これは、来年4月からメタボリックシンドロームの概念を取り入れた「特定健診・特定保健指導」が始まることも要因といえそうだが、若年女性の場合、むしろダイエットの行き過ぎによるやせのほうが問題だ。

 これは日本のメタボリックシンドロームの診断基準を取りまとめた住友病院長の松澤佑次氏も、講演のたびに力説していることだ。女性の場合、メタボリックシンドロームの腹囲基準を見直すことよりも、むしろやせ対策の方が急務なのである。

◎ 妊婦の場合、胎児にも深刻な影響が

 厚生労働省の国民健康・栄養調査結果などをみても、若年女性のやせは増加傾向にある。2005年の調査結果によると、女性では40〜60代でも肥満者の割合が20年前(85年)、10年前(95年)と比べて減少しており、さらに20〜30代では約2割がやせであった。  ダイエットの行き過ぎから摂食障害に陥る女性も増えており、最近では中高生だけでなく小学生の発症も珍しくないという。

 やせすぎというのは要するに栄養が足りないということ。じゃあ栄養を補えば解決するじゃないかと思うが、ことはそう簡単ではない。摂食障害患者の多くは「やせている=美しい」という“認知のゆがみ”を抱えており、心身症をはじめ多くの合併症を併発するケースが多い。

 このため、治療は長期化する。しかも、やせすぎによる低栄養が続くと、将来にわたって女性の身体にさまざまな悪影響を及ぼす。例えば、不妊や骨粗鬆症リスクの増加の原因になるだけでなく、妊婦の場合、胎児にも深刻な影響があることが最近の研究で明らかになっている。

 国の将来を考えた場合、一番怖いのは若年女性のやせが本人だけの問題にとどまらないことだ。やせ傾向は妊婦にも広がっており、それが最近の低出生体重児の増加につながっているともいわれている。

 「妊婦のやせ=胎児の低栄養」は、児の脳の発育にも重要な影響を及ぼす。最近、増えている発達障害など、小児の精神障害は妊婦のやせが関連していると指摘する専門家もいる。また、低出生体重児は将来、生活習慣病に罹患するリスクが高いとの報告もある。

 こうした将来の影響の大きさを考えると、若年女性のやせ問題は、メタボリックシンドロームと同じくらい大きな国民の健康問題だといえる。これまで女性の痩身願望をあおってきたマスコミや世の男たちにも大いに反省してもらわないといけないが、メタボリックシンドロームのように、問題の大きさを社会にアピールするのは医療界の大きな責務だろう。 (中野 雅弘)




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