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「なぜ市民記者は辞めてしまうのか」への異論

プロ記者がオーマイニュースを語りますよ

藤倉 善郎(2007-09-28 23:30)
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 市民記者編集委員・木舟周作記者による「なぜ市民記者は辞めてしまうのか」で、オーマイニュースの記事に関する興味深いデータが提示された。しかしそのデータをめぐる木舟記者の評論については、私は少々不満が残る。

 同じデータを見ても、私の印象は、木舟記者が記事で書いたものとはまったく違っていた。それほど悲観的なデータには見えなかったのだ。また、データから導き出されている(かのように見える)編集部批判の内容も、正直、データの内容と直結するように思えなかった。

 これまで紙媒体で記事を書く仕事をしてきた私と、オーマイニュースの市民記者として経験を積んできた木舟記者とでは、見えているものが違うのかもしれない。

 そこで、同じデータをもとに、少し違う視点でオーマイニュースを捉えてみたい。

「実働記者3%」は本当に「わずか」と言えるのか?

 木舟記者が示したデータでは、主に以下の点が指摘されている。

・4本に1本が編集部員またはプロ記者による記事で、記事がトップに掲載される率は市民記者の記事より編集部員・プロ記者の記事の方が圧倒的に高い

・1カ月間に1度でも記事を書いたことのある市民記者数は、わずか110人(登録記者総数の3%)である

・約50名の常連記者で8割の記事が占められている

 これらのことから木舟記者は、「『市民みんなが記者だ』を合言葉に創刊された市民記者メディアとしては、いささか看板倒れでは」「編集部は自ら記事を発信するより前に、どうしたらもっと市民記者からの投稿が増えるか、その点にこそ全精力を注ぐべき」と評している。

 しかし、本当にこの数字は「看板倒れ」なのだろうか。

 確かに、市民記者の実働率が3%という数字には、「少ない」という印象をぬぐえない。しかし既存の紙媒体で仕事をしてきた私の感覚からすると、創刊からわずか1年で「1カ月あたり110人の記者を動員」する媒体というのは、むしろ立派に思える。

 オーマイニュースの元木昌彦編集長にたずねてみると、元木氏が講談社に在籍していた頃の『フライデー』では、カメラマンも含めて約40人の記者が取材にかかわっていたという。『週刊現代』では取材記者(カメラマンとアンカーマンを除く)が約40人だった。

 「週刊現代では、多いころは50人くらいの取材記者がいたが、いまは30人くらいではないだろうか。週刊文春などもそのくらい。両誌とも、毎号ほぼ同じメンバーで誌面を作っている。通常、週刊現代クラスの週刊誌編集部では、社員記者、嘱託記者、編集者、アンカーマン、カメラマンをすべてあわせて100人前後になる」(元木氏)

 つまり、「記者数110人」のオーマイニュースは、記者数だけで言えば日本最大級の出版社の週刊誌編集部まるごと1つ分。いや、記者だけでこれだけいるのだから、週刊誌編集部以上の規模なのだ。

 ただし、オーマイニュースがネットを利用して一般市民の参加を呼びかけている点を考えれば、「実働110人」は満足に値する数字ではないだろう。また、記者の数で健闘していたとしても、記事の内容が伴っていなければ意味はない。

数字ではなく中身を見るべき

 木舟記者は、編集部員・プロ記者による記事数が多いことや、それらの記事の方が市民記者の記事よりもトップ記事扱いになる率が多い点を指摘している。これこそ、まさに記事の中身に関わる問題であって、数字だけで論じることに無理がある。

 たとえば編集部員・プロ記者の記事では、市民記者の記事にしばしば見られるような「オピニオン記事」「日常のレポート」「エッセイ」のような記事は多くはなく、政治、経済、社会など、マスメディア的なニュース性をもったテーマや、記者の専門性を活かした記事が中心だ。

 私個人の感覚としては、市民記者でも、足を使って取材すればこうした記事を書けると思っているし、PJニュースのパブリックジャーナリスト(=市民記者)はこのような記事を書いているが、現状オーマイニュースはまだそこまでの機動性は持っていない。

 編集部員やプロ記者による記事には、一般性のある「ニュースサイト」としての速報性やクオリティを確保する役割があるし、それによって幅広く読者を獲得することで、速報性や話題性とは違った価値をもった市民記者の記事に読者を誘導する窓口にもなる。

編集部員とプロ記者の記事なしで成り立つのか?

 市民記者の投稿を増やす努力を編集部に求める木舟記者の意見には大賛成だ。しかし編集部発の記事を発信するより前に、市民記者の投稿を増やせというのは、明らかに間違っているのではないか。編集部には、自身による記事発信と市民記者の投稿促進の両方が必要なのである。

 いま速報性、一般性、専門性のある編集部発の記事がすべて消えたとしたら、読者の幅はさらに狭(せば)まり、「自分もここで記事を書いてみよう」という人の幅も狭まる。ニュースサイトとしてのテーマ選びや取材力を確立できる可能性もさらに小さくなり、おそらく2度と立ち直れない悪循環に陥るだろう。

 編集部発の記事の割合が多いという現状は、「市民によるメディア」と矛盾するようにも見える。もちろん、「100%純粋な市民メディア」はひとつの理想形として考え得る。ただ、現状でいきなりそれが成り立つのか、という問題がある。物理的にはもちろん可能だが、それで読者が読んでくれるニュースサイトになるとは思えない。

 編集部が市民記者を増やす努力をすべきであることは言うまでもないが、同時に、市民記者の側も、自分たちに何が足りないのかを考えて欲しい。

なんて子どもなジャーナリストなんだ

 木舟記者の記事は、市民記者の記事の「取材力不足の典型例」と言える部分もある。

 「約束を守らない編集部は信用できない」という項に書かれている田村圭司記者のエピソードは、その内容が事実なら、確かに編集部の不手際なのだろう。しかし、単語表記をめぐるやりとりから生じた不満によって記事を書かなくなったケースが、市民記者離れの典型例、あるいは象徴的な事例と言えるのだろうか。

 木舟記者の記事が、「田村記者に対する編集部の対応の不手際」を批判する趣旨なら、それでも構わないだろう。しかし、「なぜ市民記者は辞めてしまうのか」がテーマなのだから、この事例が記事テーマにからむ必然性を示せるだけの取材をするなり、テーマに沿った議論をできる他の事例を取材してくるなりしなければ、記事のつじつまがあわなくなってしまう。

 木舟記者によれば、田村記者は「何冊かの著作を持つプロのジャーナリスト」とのことだが、プロであれば当然、媒体ごとにある程度、表記基準が存在していることも、記事とは「編集部と記者との共同作業」で作られるものだということも常識であるはずだ。編集部に対する協調性がまったく感じられない田村記者のコメントに対して私は、「なんて子どもなジャーナリストなんだ」ぐらいの感想しか抱かない。

 田村記者が実際にどんな人物なのかはもちろん知らないが、木舟記者の記事が、そういう印象を抱かせる内容だった、ということである。

批判対象にこそ喋らせるべき

 木舟記事の「取材不足」は、編集部にデータを提供させておきながら、当の編集部の見解を全く取材していない点だろう。

 このデータに対する編集部の見解などがすでに公けになっているのであれば、直接コメントを取らずとも、その見解を引用するだけでもいい。しかし、そういった方法も含めて、編集部の見解は一切記事に示されていない。

 相手の見解を示す行為は、単なる「両論併記のアリバイ作り」ではない。相手の言い分を聞き、その上でもなお、批判できるポイントがあるのかどうかを判断してから記事を完成させる方が、情報としてフェアである上に批判の質も高くなる。だから「プロ記者」は、単なる「数字いじり」ではなく、取材を重視する。

 「なぜ市民記者は辞めてしまうのか」というテーマにおいては、市民記者以前に「プロ」の中でも特異の部類に属しそうな人物よりも、編集部のコメントの方こそ必要だった。編集部に言いたいことを言わせた上で批判した方が、よりスリリングで有意義な批判になったのではないだろうか。

 たとえば、市民記者の実働率が3%だとして、それは以前に比べて多いのか少ないのかについて編集部のコメントを一言とっておけば、3%という数字が低いのか高いのかを示せないままの批判ではなく、「実働率が落ちてきている」という根拠によって編集部を批判することができただろう。

 今回の記事では、単に「コメントを取る」という作業が足りなかったというより、「このテーマにおいて、誰の、どんなコメントが必要なのか」という判断力が不足していたのかもしれない。

 というわけで、編集部の言い分を聞いてみた

 そこで、今回の木舟記者の記事で示されたデータについて編集部のコメントをもらうべく、虎ノ門の編集部に襲撃をかけた。平野日出木編集次長に答えてもらった。

──お世話様です。プロ市民記者の藤倉です。はいこれ、賄賂(わいろ)。北海道取材の土産のマルセイバターサンドです。

 え、藤倉さんが賄賂なんて珍しい。次は小川軒のレイズン・ウィッチでお願いしますね。

──わかりました。さっそく本題に。今回、木舟記者からデータ提供の申し出があった際、コメントは求められなかったんですか?

 オフレコ? それともオンレコ? あ、書くのね。ではエリを正して、と。

 求められなかったですね。今回は編集も拒絶されました。だから表を付け加えたほかは、一字一句、木舟さんの原稿そのままです。編集委員クラスになりますと、表現の面では普段からほとんど手直ししていないです。ただ編集していたら、原稿を突き返していたでしょうね……というのは冗談ですが、読んで、生データを単に加減乗除しているだけ、という印象はしました。でも編集部に大きな不満があるという一点はよく理解できましたので、そのまま掲載しました。

──1カ月あたりの実働記者数が3%、110人という数字をどう評価しますか?

 3800人(記者登録数)を分母にしちゃうとそうなりますけど、1カ月で登録記者数全員が稼動することはあり得ないですから。1年に1回入魂の1本でも、一生に1本でもいいわけですから。すべての登録者に「市民記者編集委員並みに書いてください」というのは無理です。

──市民記者の実働率は、創刊当初と比べて下がっているんでしょうか。

 2006年10月中旬に、市民記者2200人の時点でざっと調べたことがあります。そのときでも、1日の投稿数が、やはり今と同じ20本から30本でしたから、それと比べると落ちていますね。

 韓国の場合は、市民記者4万4000人で、1日投稿数は200本弱と、同じ昨年10月中旬時点ですが、聞いていました。

 100人の記者が毎日1本書けば、集まる記事数は1日100本。2日に1本書けば、1日の記事数は50本……という具合に計算すると、韓国版の場合、市民記者1人は、平均200日に1本のペースで投稿している。日本も今、その回転率に近くなっています。JANJANやPJニュース、ツカサネットがどうなのか、知りたいですね。藤倉さん、調べてくださいよ。

──それは木舟大編集委員にやっていただきましょう。ところで、市民記者の実働率を上げるのか、それとも記者登録数をもっと増やすのか、編集部としてのビジョンや希望があったら教えてください。

 書きなれてきた市民記者の記事は、どんどん長くなる傾向にあります。そうすると逆に、「あんな長い、本格的な記事は書けない」と不満を漏らす市民記者も出てきています。投稿の敷居を下げるために、ショートニュースや川柳を設けました。これは稼働率を高めたいがための措置です。携帯電話から投稿できるように、システム面の対応も急ぐ必要があります。記者登録数はもちろん増やしたいです。

──ところで、ぼくらプロ記者の記事は、実際のところどのくらいオーマイニュースのPVに貢献できているんでしょうか。PVがすべてとは思いませんが、参考までに知りたいです。

 9月26日現在でみた直近20本の記事の平均PVですが、たとえば藤倉さんは2262、北澤強機さんは3262、渋井哲也さん4016、コラムニストの亀山早苗さん4157、メディアウォッチの小野川梓さん4083──といった感じでしょうか。

 でも、PVだけを目当てに編集部がフリーの方にお願いしているわけではありません。経済関係の中村太郎さん、佐藤義典さん、株記事などのPVはもう少し少ないですが、これらは記事分野のバラエティを増やしたいので載せています。

──編集部員やプロ記者による記事の意義・位置づけをどう捉えていますか?

 木舟さん記事のコメント欄にも書いたのですが、補完関係にあると思います。市民記者の記事がオピニオン主体であれば、プロの方にはファクト中心のストレートニュース。市民記者の記事が“テール”ならば、プロの方には“ヘッド”。市民記者が「日持ちする独自モノ」であれば、プロには「腐りやすいが、その日感覚のある発生モノ・発表モノ・共通モノ」をお願いすることになるでしょうね。

 市民記者の記事に「その日感覚」のものが増えてくれば、プロの方には、また違った内容のものをお願いすることになると思います。

──最終的には「100%ノンプロ記者」のメディアを目指しているんですか?

 そんなことはありません。市民記者から出発して、他の媒体にも記事を採用してもらえるフリーランス記者が生まれたり、編集部員になって、100%近い時間をオーマイニュースのために投入してくれる人が出てきてくれればいいなと考えています。

  ◇

 実を言うと、編集部を云々(うんぬん)することを「記事」という形で読者に読ませることに、私はあまり意味を見出していない。もっと一般読者が面白いと思うことや、知って得するすることを記事にすべきだ。

 しかし、今回の木舟記者の記事は、いろんな意味で「市民記者による批判」と取材方法のあり方について考える好材料だったように思う。示されたデータも面白かった。

 上の編集部コメントを見て、編集部や平野次長をどう評価するかは皆さん次第。そして、編集部への批判や要望だけではなく、市民記者の方にも課題は多いということを知ってもらえればと思い、今回の記事を書いた。

 これが何かの参考になるか、あるいは議論の燃料にでもなれば幸いだ。ちなみに私はレーズンが大好きだ。小川軒は東京なので、今度はそれでも買って、編集部員たちを励ますことにしよう。

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