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動臨研カンファレンス

シクロスポリンを使用した猫の2例 2003年3月

植田幹也 小野田等 岡田みどり 古川修治 山村穂積(北川動物病院・東京都)

【はじめに】

小動物臨床の現場において、乾燥性角膜炎やアトピ−性皮膚炎、IHA等、様々な免疫介在性疾患に遭遇するが、その第一選択薬としてステロイドを使用する事が多い。今回 我々は、ステロイドの長期投与が困難であった猫の二つの症例に対し、比較的副作用が少ないとされるシクロスポリンの使用を検討した。

【症例1】 

雑種猫、去勢済雄、年齢不明(5〜6歳?)、屋内外飼育、ワクチン未接種。以前に噛傷、膀胱炎の既往歴があり、ウイルス検査も実施済み。(FIV抗体:陰性 Felv抗原:陰性 FIP抗体値100倍) 一昨日より元気・食欲消失し、後駆のふらつき、痛み、発熱を主訴に来院した。

●身体一般検査所見  体重 4.8kg、体温 40.3℃、触診にて右後肢 足根関節の腫脹・熱感・著しい痛みが認められた。

●血液検査所見 白血球数の減少(2700/ul)がみられた。

●治療および経過 患部針生検でも著変を認めず、抗生剤(AMPC)とNSAIDの投与を開始した。若干の改善はみたものの、第4病日には再び元気・食欲廃絶、発熱、患部の痛みがみられた為、プレドニゾロン(2mg/kg SID)を開始した。以降、再び状態の改善をみることができた。全身状態がステロイドによく反応することから、免疫介在性の関節炎を疑い、以下の追加検査を行った。

ウイルス検査 FIV抗体:陽性、 FeLV抗原:陽性、抗核抗体:陰性、リウマチ因子:40倍以下(陰性)

第13病日目にステロイドを0.5mg/kg SID に減量したところ、発熱があり、痛みも両後肢足根関節へと広がりをみせた。 再びステロイドを増量する事で状態の改善をみたものの、ステロイドの長期にわたる大量投与は困難と判断し、代替の免疫抑制剤としてシクロスポリン 5mg/kg SIDの内服を、ステロイドとの併用で開始した。第88病日にシクロスポリン濃度を測定したところ、1670ng/mlと高値を示した為、投与量を2mg/kg SID に減量した。第102病日にステロイドを休薬したが、症状の再燃はみられなかった。第132病日に再度シクロスポリン濃度を測定したところ257 ng/mlと安全な値を得ることができた。

【症例2】

雑種猫、去勢済雄、14歳、屋内飼育、ワクチン予防実施済。3年前より断続的な咳が続き、他院にて好酸球性肺炎と診断、以降ステロイドの投与を続けているとの事。最近 削痩、食欲減退、多飲多尿が顕著となり糖尿病の診断をうけている。

●身体一般検査所見 体重 4.8kg、体温38.8℃。軽度削痩。来院時、呼吸器症状は落ち着いていた。

●血液検査所見 血糖値の上昇(410mg/dl)およびALT値、Tcho値の軽度上昇がみられた。

●治療および経過  ステロイド誘発性糖尿病と診断し、インシュリン療法と食餌療法を併用すると同時に、ステロイドの休薬を行った。これにより血糖値の低下がみられた為、インシュリンの減量を続け、第31病日にインシュリン療法を終了した。

第54病日に発咳で来院し、胸部単純X線検査で気管支肺炎像の増悪がみられ、また末梢血中の好酸球数も、1570/ulと高値で推移していた。好酸球性肺炎の再燃と診断し、抗生剤(AMPC11mg/kg BID)、気管支拡張剤(テオフィリン11mg/kg BID),抗アレルギ−剤(トシル酸スプラタスト3.5mg/kg TID )の投与をおこなったが、改善はみられなかった。この結果 第64病日にステロイド療法を再開し、状態の改善をみたものの、第180病日に再び呼吸状態が悪化し、血糖値も461g/dlと高値を示した。そのためインシュリン療法を開始すると共に、ステロイドの増量は困難と判断し、シクロスポリン5mg/kg SIDの内服を開始した。シクロスポリン投与後、発咳の減少がみられたためステロイドの減量をおこない、第202病日には休薬を行った。以降、シクロスポリンを2.5mg/kg SIDに減量し、インシュリン療法と共に全身状態は良好に推移していると考えている。

【考察】

本症例は2例とも免疫介在性疾患とみなし、ステロイドを第一選択薬としたが、ステロイド抵抗性もしくは医原性糖尿病等、副作用の問題で長期寛解が困難であった。その代替として使用したシクロスポリンだが、良好な経過を得ることができた。 シクロスポリンは細胞性免疫を強力に抑制することにより、日常遭遇する様々な免
疫介在性疾患に応用が可能と考えられた。シクロスポリンの副作用として、腎毒性、多毛、歯肉増生とくに猫では消化器症状等が報告されているが、本症例では明らかな副作用は認められなかった。ただし高齢猫における定期的な腎機能のモニタ−は必要であるとおもわれた。


 

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