[PR]

■夏に笑おう

 二瓶夏樹。17歳。ジャスティン・ビーバーとイチゴが好きな高校3年生の右手は、まめだらけだ。

 選手が3人しかいない坂下高校野球部(福島)。内野に選手が散らばり、監督の鈴木裕(32)が一塁でグラブを構える。ノックをするのは二瓶と永山綸(3年)、マネジャー2人の役割だ。

 「ナイスキャッチ」。白い歯をのぞかせながら、懸命にバットを振る。2人合わせて200球打つこともある。

 二瓶がバドミントン部を辞めて、野球部に入った昨年6月。鈴木に「ノックを打ってもらうから」と言われたときは、思わず「え?」と聞き返した。「お前がノックできれば、選手の練習時間が増えるんだ」

 飲み物をつくったり、スコアブックをつけたりするだけじゃない。実際の野球でも役に立てるんだと思うと、うれしくなった。

 だが、野球の経験は両親とキャッチボールをしたことがある程度。ボールを真上に上げられず、バットを振っても空振りばかり。やっとボールに当たっても、勢いのない打球は選手まで届かなかった。

 二瓶は選手たちがキャッチボールや打撃練習をしている間に、ネットに向かってノックの練習をした。筋力をつけるため、ベンチプレスもやってみた。右手にできたまめが何度も潰れた。シャンプーがしみるため、左手だけで洗髪した。

 「根性がある。選手でも、良い選手になっていた」と鈴木は話す。数カ月すると、内野手まで速い打球が打てるようになっていた。

 土日、二瓶は昼過ぎに練習が終わると、砂ぼこりでこわばった髪を部室で素早くとかす。

 仲良しの同級生とJR只見線に乗り会津若松へ。駅に着いたら、まずカフェへ向かう。

 「卒業したら、カナダに行って、ジャスティン・ビーバーのライブに行きたいね」

 アイスココアを飲みながら、気づくと3時間。散歩して、今度はファミリーレストランへ。夕食を食べながら、また数時間話す。

 好きな俳優、行きたい外国……。部活の話題になることもある。ノックの話をすると、「マネジャーがノックとか、やばくない?」と驚かれる。

 「やってみると意外と楽しいんだよ」

 坂下高校は連合チームを組んで福島大会に出場している。昨夏、チームは守りが崩れ、0―11と大敗した。

 二瓶が今、ノックで心掛けているのは、高いバウンドのゴロを打つことだ。鈴木が選手を指導するのを聞いていて、前に突っ込んで捕る練習が必要だと考えたからだ。最近、選手たちはバウンドに合わせるのがうまくなってきた気がする。「できれば勝って、笑顔で喜ぶ姿が見たい」と二瓶。

 坂下の主将、野中迅(3年)は「これだけ手伝ってくれるマネジャーはいない。二瓶たちのためにも、恥ずかしい試合はできない」と話す。

 二瓶は「みんなと野球ができる今が一番楽しい」。

 初戦まで2週間足らず。

 このまま夏が来てほしくないとさえ思う=敬称略(石塚大樹)

■マネジャーはどんな仕事をしていますか?

・春先にグラウンドの雪の中からベースの場所を探す(南会津・湯田のぞみさん)

・中学時代、陸上の選手だったことが監督に知られ、選手のトレーニングメニューを作成(いわき光洋・栗林友那さん)

・餅をつき、選手の補食として食べさせている(会津工・小池未来さん)

・部員が少ないため、大会の応援は太鼓たたき、声出しも含めマネジャー中心(須賀川桐陽・工藤莉咲さん)