2017-04-05
■P2Pによって国家の形は変わる。 ゲンロン0 は現代に必要な哲学の道標となる 
さて、新年度である。
新年度早々、幸先がいい。
新年度一発目のミーティングで、非常に大きなディールが決まった。ほんとに幸先がいい。
そしていろいろなことに考えを巡らすと、僕は沈黙の艦隊を三回も読み直していた。けっこうな時間を費やしてることになる。
なかでも僕の心を捉えて話さないのはブロックチェーンの持つ潜在的な可能性だ。
僕はブロックチェーンが単なる暗号通貨を実現する以上の可能性を持っていることを確信している。その確信は、10年以上前に遡る。
僕の友人であり、ある意味でライバルでもあった、金子勇が掲げたP2Pネットワークの理想がそれだ。
金子勇は天才だった。彼のことを思い出す時、それ以外の言葉を思い出すのはちょっと難しい。僕がニューラルネットワークや物理シミュレーションに興味を持ったのも、彼が居たからだ。そして天才であるだけでなく、人格者でもあった。その2つを両立するのはとても難しい。
彼がP2Pネットワークの研究をしていることは風のうわさで聞いていたが、まさかテレビで彼の顔を見ることになるとは思わなかった。それも、犯罪の容疑者として。
彼が開発したP2Pネットワーク基盤、Winnyは、匿名化と分散を同時に行う優れた仕組みだった。しかし同時に、著作権を侵害するような利用のされ方をして、その結果、彼は著作権侵害幇助の容疑者として逮捕された。
事件は最高裁まで争われ、結局、彼は無罪になった。当たり前だ。彼はただ優れた道具を作っただけなのである。
あの頃、政府を挑発するような言動を繰り返すとだいたい逮捕された。ホリエモンもそうだ。日本は三権分立の国なので、いくら政府の職員だったり、与党と仲が良かったりしても、逮捕される時はされる。むしろそういう人を逮捕してこそ司法の存在価値があるというものだ。
しかし長すぎる裁判は天才の時間を奪った。若干42歳で彼はこの世を去った。あまりにも、あまりにも早すぎる死だった。
そして何の因果か、金子勇を尊敬し、戦友と慕う僕が、政府の知的財産検討委員になった。そして政府の人間として知的財産の議論を考えれば考えるほど、金子勇の思想はある意味で正しかったのではないかと思うようになってきた。
今、コンピュータソフトウェアの世界では、事実上、著作権は機能していない。
著作権(コピーライト)を否定する目的でうまれたコピーレフトですら、忌避されていて、いま、世の中にある重要なソフトウェアのほとんどは、MITライセンスと互換性を持つライセンスになっている。すなわち、完全に自由、というライセンスだ。
コピーレフトが、成立するためにはそもそもコピーライトが存在するという前提を必要としていたのに対し、MITライセンスは完全な自由、無制限な自由を保証している。
そしてそういうライセンスのソフトの組み合わせを土台として、AndroidやiOSと言った製品が作られている。あなたが見ているこのはてなだって、著作権や報酬請求権を保証しないソフトウェアをもとにして動いていて、はてなという会社はほんの少しだけ誰にも見せないプログラムを書いただけだ。それが21世紀のソフトウェア革命の正体である。
ではどうやって食っているのかというと、保守で食うのだ。そして保守で食うほうが、開発で食うよりも遥かに効率的なのだ。
開発で食うというのは、顧客から開発費を貰って開発することだ。これはもちろん必要なことだが、それよりも開発したソフトウェアが正常に動作し続けるように保守費用を貰って、実際にこれから起きる未知のセキュリティリスクや障害に対応する方がビジネスとして健全である。
開発費はワンショットだ。従っていつまでもいつまでもいろいろなものを開発しなければならない。これは非効率的であるだけでなく、デスマーチを誘発する。
保守費は継続的な契約だ。だから社員の雇用は保証され、保守費を通じて上げた利益で期限のない新しく画期的なソフトウェアの開発に再投資できる。
だから開発費より保守費をとれというのはこの業界の常識であり、だとすると開発したソフトウェアそのものはフリーソフトで済ませるか、開発した後にオープンソース化しておくのが正しい。オープンソースにすればなんでも解決できるわけではないが、極論、自分たちがその案件を手放したくなった時の移行もスムーズにできる。
実際、保守費と仕事内容が釣り合わない場合、他の会社に仕事をまわしたいと思っても、クローズド(プロプライエタリと呼ぶ)なソースだと人に見られることを意識してないので保守性が低いことが多い。それを社内だけで使いまわすなんてさらに非効率的でしょ。
まあひどいプロプライエタリのソースのサーパをさんざん引き継いで食ってきた僕が言うんだからある程度は信用して欲しい。
そして実際にオープンソースにしても、誰も損をしていないというのもポイントだ。僕らは保守費をとれるし、オープンソースにすることによって広がりができる。開発者も集められる。だから今、世界中の会社がオープンソース戦略を採用せざるを得なくなっている。
さて、同じことをコンテンツに適用するとしてみよう。
ネットにあるコンテンツは基本的に無料で見れるものがほとんどだ。
なぜ無料で見れるのかというと、たいていは広告が貼り付けてあるからだ。
しかしYoutubeの偏り方は、あきらかにおかしい。と東浩紀は言う。
実は知的財産の問題とブロックチェーンやP2Pの問題を考えたときに最終的にどこに落とし所があるのかわからなくなってしまってCPOの東浩紀を自宅に呼んだのだ。そしていま自分が考えていることを一通り話すと、東浩紀はこう言ったのだ。「Youtubeのビジネスはあきらかにいびつである」と。
なぜおかしいのか、ドナルド・トランプが大統領になり、ピコ太郎が世界的有名人になる世界というのは、一体誰のせいなのか。
「子供と無職だよ。彼らは時間が無限にある。だから狂ったようにリピートしてYoutubeを見る。すると視聴数があがりランキングが上昇する。つまりYoutubeのランキングは子供と無職に対して最適化されている。Facebookには知識人の誰もがトランプを批判的に書く。トランプを肯定する知識人は尊敬されないからだ。しかし実際に投票をしてみると、トランプの言ってる極論の方が支持されていたということになる。ネットにある情報はそのままは信用できない」
「嘘ばかりということ?」
「いや、嘘ばかりという話ではなく、人の本音は語られていないということさ。こんなデータを何億件集めようが本当のことはなにもわからない」
それはまさしく僕が今考えていたことと符合した。AIを教育する時、結局ネット上に落ちているデータがほとんど役に立たない事を経験的に知っていたからだ。結局今僕たちは、在宅勤務のパートを雇い、人力でデータセットを作るようにしている。人力でもかなりのペースで作れる。要は、AI専門のクラウドソーシングだ。クラウドワークスよりも安い。
「しかしブロックチェーンと暗号通貨が見せてくれる可能性を考えると、僕は世界的な国家のようなものが誕生するのではないかという予感がしているんだ。Winnyが著作権法の適用を受けなかったように、ネットは法律も国境も超えた全く異なる法治体制を実現する可能性があると思う。少なくとも価値の交換という意味では、ビットコインは成功した。沈黙の艦隊で海江田四郎が政軍分離を唱えたように、政治と法が部分的に分離されるような事態は起こり得るだろうか」
と問うと、東は
「いや僕はむしろ、世界は単一政府への道に向かわないのではないかと最近は考えているんだよ。カントをはじめむかしの思想家は、最終的には世界政府が樹立される方向に向かうと主張していたんだけど、むしろ最近はそうではないんじゃないか。グローバリズムに逆行する動きが今起きているんじゃないかと思うんだよ。それがBREXITやトランプのアメリカ・ファーストといった現象に象徴されているんじゃないか・・・あ、そうそう。この本、こんどか出すんだよ」
と、彼は一冊の本を差し出した。
僕が露骨にニガテな顔をする。
なにしろ彼の本は半分も読まずに眠ってしまうのだ。
僕が最後までちゃんと読んで感動したのは、「動物化するポストモダン」シリーズだけだった。
「またそういう顔をする。大丈夫。これは哲学書だけど、読みやすく書いたから。君でも楽しんでもらえると思う。そしてこれは僕いままでに書いたすべての本の続編とも言える本なんだ。いま議論したようなことを僕なりに整理して書いてあるから、まずこれを読んでくれ」
なるほどね
抵抗しても仕方がないので読んでみることにした。
するとこれがなんと滅法面白い。
そして確かにこれは「動物化するポストモダン」の続編とも言える内容であり、「存在論的、郵便的」の続編でもあって、「福島第一原発観光地化計画」の続編でもあるのだ。なんとすごい本だ。
東は、今最も注目すべきは「観光客」だと主張する。
こう書くと、我々哲学書を読み慣れていない読者には「なんだそれぜんぜん興味ないな」と思うかもしれない。
しかし東の言う「観光客」は、いわゆる観光客のことではない。東は観光学者ではないからだ。
しかしここ10年で世界の観光客は2倍に増えた。
カントが主張した「世界政府成立のための条件」は3つだ。
1.共和制に移行した国だけが参加できる
2.国際法は自由な諸国家の連合制度によってなされる
3.世界政府に属する諸国の市民は互いに自由に行き来できなくてはならない
カントの時代にはまだ大衆旅行もなければ国際連盟もない。
そして世界政府樹立のための3つめの条件が意味することは、互いの国を観光できなければならないということだ。
1と2は、政府だけで実現可能だが、3は政府が主導となるわけではなく、市民が勝手に自分のお金で観光に行く、ということが重要になっている。
確かに、政治的に険悪な国であっても、観光客としては受け入れる、ということは普通に行われている。
東はここに、味方でも敵でもない、「観光客」または「観光のまなざし」という国家システムにとって全く新しい要素を導入できないかという勝機を見出している。
市民の努力によって達成されている政治と無関係だが国際的政治的な動きとしてビットコインやブロックチェーンを考えるなら、たしかにこの視点は極めて重要になってくる。
そんなわけで珍しく一気に読んだ。
会社で東ファンにこのことを伝えると
「えーまだ発売されてないんですよ。ずるいじゃないですか」
と言われた。
あ、そうなんだ。なんだか得しちゃったな。
発売は今週末!「観光客」という言葉に惑わされず、これからの時代を理解するために必ず役立つ一冊です。ぜひ予約をおすすめします。本当に主白いですよ。
- 作者: 東浩紀
- 出版社/メーカー: 株式会社ゲンロン
- 発売日: 2017/04/08
- メディア: 単行本
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