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一瞬で胸まで「景色も音も覚えてない」

救助され、下山する高校生たち=栃木県那須町で2017年3月27日午後6時45分、小出洋平撮影

 安全な登山を学ぶ場でなぜ--。栃木県那須町のスキー場で27日朝、登山講習中の県内高校生らの団体が雪崩に巻き込まれた。高校生7人と教員1人が死亡し、重傷者を含む40人が負傷する惨事に。深い雪に阻まれ、消防や警察、自衛隊による救助作業は難航。「我が子は」。保護者らは悲痛な表情で無事を祈った。

 「雪崩が来るぞ」。講習に参加していた矢板中央高校1年の男子生徒(16)は男性の大きな叫び声を聞いた。ゲレンデのコース外にある樹林帯で、雪をかき分けて進む訓練中だった。その後の記憶ははっきりしない。気がついたときには胸の辺りまで雪に埋もれていた。自力ではいずり出て、全身が埋まった仲間をみんなで助け出した。

 男子生徒によると、午前7時半ごろから班ごとに樹林帯のあちこちで訓練をしていた。雪はひざの高さぐらいまで積もっていた。「雪崩はあまりに突然で、景色も音も覚えていない」とぼうぜんとした様子で語った。

 事故現場のゲレンデ入り口には規制線が張られ、消防や自衛隊の隊員らが担架などを抱えて慌ただしく出入りした。午後7時ごろ、スキー場に待機していた生徒ら約30人が消防車両で下山した。

 那須地区消防本部によると、警察からの通報を受け、午前10時過ぎに隊員がスキー場に着いたが、積雪のため、雪崩の現場に到達するのに更に約2時間かかった。スコップを使って捜索したが、雪は深いところで腰の高さまであったという。

 同消防本部の室越孝・警防課課長補佐は「新たな雪崩が発生する恐れもあり、慎重さが求められた。地元の山岳救助隊のアドバイスを受け安全なルートを選びながら現場に向かった」と話した。捜索終了は発生から8時間以上が経過した午後5時ごろだった。

 先頭の班で生徒、教員計8人が犠牲になった県立大田原高校の山岳部はインターハイに8年連続出場し、今年度は全国7位の強豪だ。27日夕、報道陣の取材に応じた堀江幸雄教頭(55)によると、県高校体育連盟の「春山安全登山講習会」には毎年参加。高体連登山専門部委員長も務める顧問の男性教諭ら教員2人が1~2年生12人を引率した。

 事故の一報を聞いてすぐに引率の教諭に連絡したところ「雪崩が起きて生徒たちが巻き込まれたかもしれない」などと話したという。現地に教員2人を派遣し、警察などからの情報収集に追われた。堀江教頭は「学校行事でこのような事態が起きたことを重く受け止める。全員が無事に戻ってくるよう祈っている」と沈痛な表情で述べたが、その後、悲報がもたらされた。

 生徒らが搬送された病院には家族らが駆けつけた。国際医療福祉大病院(栃木県那須塩原市)に搬送された大田原高1年の男子生徒を訪ねて来た親戚の女性(68)は「まさかこんな事故に巻き込まれるなんて」と目に涙を浮かべた。

 那須赤十字病院(同県大田原市)には男子高校生2人と教員と見られる男性が相次いで搬送された。連絡が取れない山岳部の友人の安否を確かめようと病院を訪れた大田原高2年の男子生徒(17)は昼過ぎにツイッターで事故を知った。「どうして事故が起きたのか。信じられない」と話した。

 同病院には災害派遣医療チーム(DMAT)の23人が処置のため待機。担当者は「更に受け入れを予定している。救命救急センターはばたついている」と緊迫した様子だった。【岸慶太、加藤佑輔、杉直樹、乾達】

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