退位有識者会議 官邸の代弁者では困る
天皇陛下の退位を巡る政府の有識者会議が議論を再開した。衆参両院の正副議長の下、与野党が立法形式で基本合意したことを踏まえ、退位後の呼称などの検討を始めた。
天皇が退位した最後の例は200年前にさかのぼる。ただし、象徴天皇としては初めてとなる。退位や皇位継承をどう円滑に実現するか。丁寧な議論が必要だ。
第一の課題は、退位した天皇の呼称や活動内容である。退位した天皇は歴史的に「太上(だいじょう)天皇」(上皇(じょうこう))と呼ばれた。有識者会議の専門家ヒアリングでも「上皇」を支持する意見があった。これとは別に「前(さきの)天皇」とする意見もある。
退位した前天皇と即位した新天皇がいるなかで、象徴や権威の「二重性」が起きない配慮が求められる。
古くは上皇が権力を維持したまま「院政」を敷き、天皇と争うことが少なからずあったが、象徴天皇制が定着した現代では本質的な問題ではない。いずれにせよ国民に理解される呼称を考えるべきだろう。
象徴の二重性を生じさせないために、退位後の公的な活動が制約されるのはやむを得ないのではないか。
もう一つの課題は、皇太子さまが天皇になると次の皇太子が不在になることだ。皇太子は皇位を継承する天皇の男の子を言うが、今の皇太子ご夫妻に男のお子さまはいない。
皇太子は次の天皇としての地位であるだけでなく、天皇に代わって国事行為の「臨時代行」を務めたり、全国的な恒例行事に出席したりするなど重要な役割を持つ。
このため皇位継承順位1位となる秋篠宮さまの明確な地位や待遇に関する検討も欠かせない。過去には「皇太弟」と呼ぶ例もあった。増える公務への支援体制も議論となろう。
次代を担う「世継ぎ」として国民になじんでいる皇太子の不在について議論が起きる可能性もある。
先に正副議長がまとめた見解は女性宮家創設の検討を政府に求めている。すぐに女性の皇太子につながる議論ではないが、安定的な皇位継承のための議論は深めるべきだ。
有識者会議は昨年夏に退位の意向を示唆した陛下のおことばを受けて設置されたが、御厨貴座長代理が「一代限りの特例法」の方向を早々と示し、不適切な対応だった。首相官邸の代弁者のような姿勢は困る。
議論を引き取った大島理森衆院議長は「国会は有識者会議の下請け機関ではない」と押し返し、正副議長は野党にも配慮して特例法による退位の根拠規定を皇室典範の付則に置くという見解をまとめた。
有識者会議の結論は今後の退位と皇位継承を新たに規定する。見識ある提言を示してほしい。