米連邦準備理事会(FRB)が15日に踏み切るのはほぼ確実とみられる0.25%の利上げは、このところの世界の中央銀行の動きとしては関心を引く度合いが弱い部類に属する。
この利上げは、すでに十分な合図を受けて織り込まれており、金融市場に大きな転換を引き起こす可能性は薄いだろう。実際、FRBがこれほど静かに予測可能な形で利上げができるという事実は、中央銀行の環境が変わったことを示す証しであり、この変化は欧州と日本にも広がりつつある。デフレの脅威と経済的混乱との長い戦いの末に、各国の中央銀行はようやく行動の実りが見えるようになった。果てしなき危機モードで活動するのではなく、いくらか正常な状態に戻れるようになったのだ。
もちろん、この文脈での「正常」が各国の中央銀行に意味するのは、金利を世界金融危機以前の通常水準に早く戻そうとすべきだということではない。それは米国も同じだ。
FRBの前回の見通しでは、今年の米国の経済成長率は長期成長率を小幅に上回る2.1%だが、インフレ目標圏へ近づくにはまだ埋めるべき過剰設備が大きいかもしれない。失業率は2007年以来の低水準にあるが、労働参加率は金融危機後の急低下から回復していない。成長が加速しても、すぐに賃金を押し上げるよりも離職した労働者の復職を促すことになる可能性がある。
他の国々の中央銀行は依然、金融政策の引き締めを真剣に検討するには時期尚早だ。日銀と英イングランド銀行も今週の会合で金利について協議するが、借り入れコストを高くするのは賢明でないだろう。
■中銀を取り巻く環境は「正常化」しつつある
それでも、中央銀行の活動環境が正常さを取り戻していることは、はっきり感じ取れる。この10年の大部分を通じて、中央銀行にとって圧倒的な問題は大恐慌の再来につながりかねない悪性のデフレを回避することだった。量的緩和(QE)プログラムやマイナス金利をはじめとする異例の政策はすべて、物価の下落が実質借り入れコストをさらに押し上げ、すでに弱っている経済を押しつぶすという破局のシナリオを避けることに的を合わせている。
これらのプログラムは、かなりの程度まで効果を生んだ。欧州中央銀行(ECB)内部からも含めてQEプログラムに対する的外れの批判にさらされてきたドラギECB総裁は先週、QEという新手法の発端となったデフレの脅威に対して勝利を宣言した。日本では1月、2年ぶりにコアインフレ率がプラスに転じた。国債利回りもプラスとなり上昇している。
このような状況の中、先進国の中央銀行の間では、デフレに対する保険一辺倒からデフレとインフレのリスクの兼ね合いを見る姿勢に転じる動きが広がっている。ECBは、現在マイナス0.4%としている預金金利の年内引き上げを検討するかもしれない。日本での政策論争も同様に、次の緩和のタイミングから日銀が引き締めに転じるかに焦点が移っている。
各国の中央銀行は依然として微妙な立場にあるが、もう切羽詰まった状態ではない。バランスとしては、緩和寄りで間違ったほうがいいという姿勢を保つべきだ。その分、金利を大きく引き上げなければならなくなっても、そのコストは現時点で景気回復の腰を折るリスクよりも小さい。それでも各国中央銀行の仕事は今、自らの努力が主因となって危機以前の金融政策の正常な状態にずっと近づいている。
(2017年3月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
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