⬆のひな祭り企画のssです。今回は交流目的で作品を作るため、他のPFCS作品の名称やキャラの名前も積極的に出していくつもりです(嫌だったらごめんなさい)。
Twitterで許可(?)をとったので、早速今回からゲストが登場します!
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何に使うかわからない薬品が、狭い部屋の壁一面に置かれている棚に敷き詰められていた。私が知る限りでも生化学検査薬、ホルモン治療用の薬、単なる風邪薬、幻覚作用を引き起こす麻薬など様々だ。
床の絨毯はひどくすすけており、積もった塵によって元の色がわからなくなっていた。
私は狭い椅子に大きな体を無理矢理押し込み、業務台を挟んで向こう側にいる人物を見つめていた。
彼は舐めたくなるような白く美しい肌に、並の宝石よりもよっぽど美しい紫の瞳を持ち、黒い外套を羽織っていた。
「ドクターレウカド、商売の方はどうだ?」
「最近妙な客が多い。特にドレスタニアの道化師衣裳の男には気を付けた方がいい。いろんな意味でな」
部屋に充満する煙は彼の手に握る煙管から発せられていた。
私のペストマスクのなかにも微かに煙草の香りが漂っている。一瞬、私の長髪に匂いがつかないか心配になった。
「あんたの方は。自殺願望を持つ人を解剖するのがあんたの仕事だったか?」
「その通りだ」
私は黒いコートの胸ポケットから、解剖用のメスをちらつかせる。
「前にも聞いたかもしれないが……それでどうやって稼いでいるんだ?自殺志願がいくら多くても一日にこなせる人数は決まってくるだろう?」
銀色の髪の毛を揺らしながドクターレウカドは問いかけてきた。
「この解剖を利用して、公には出来ないような医療実験も出来るんだ。データを売り飛ばせばそれなりに金になる。それに死亡理由の偽装や整形も……殆ど医療器具の費用で消えるが」
ドクターレウカドは煙管に口をつけた。管口がほのかに赤く火照る。
一呼吸おいて、レウカドの口から、自分の素肌と同じように白い白煙を吐き出した。白煙は自ら意思を持つかのように私の体を包み込む。
「……医療人には厳しい世の中だ。さて、今日は何を治してほしいんだ?」
「最近不眠に悩まされていてな。ストレスで自分何かに追い詰められる悪夢ばかり見るんだ。メユネッヅで治療したいところだが、私は永久追放を受けてるいる」
ドクターレウカドは奇妙に口を歪めた。一瞬なんだと思ったが、単なる笑顔らしい。
「ああ、あるぞ。まあ、『かかる』か『かからない』かはあんた次第だが……」
「構わない。『ドクターレウカドに治療してもらった』、この事実だけで十分だ。その事実だけでも安心する」
黒衣の医者は私の後ろに消えた。一呼吸置いたあと、レウカドの繊細な指が私の首筋を包んだ。そのまま耳元になまめかしい声が発せられる。
「……なら、ゆっくりと鼻から煙を吸うんだ。首を少しあげて気道を広くしろ。そうだ、その調子だ」
ドクターレウカドの心地よい言葉がペストマスクに響く。
「なるべく自分の陽になることを考えるんだ。家族とか恋人とか、好きな食べ物のことでもいい」
私は今は亡き恋人のことを思い出していた。あいつにも首筋を撫でてもらったことがあった気がする。
「全身の力を抜け……。まず手が重くなっきた……次に足も重くなってきた……。その調子だ、完全に力を抜くんだ……」
安心感からか、瞳に瞼が重くのし掛かってきた。心地よい部屋の空気と硝煙とが混じりあい、私は深い夢の中へと堕ちていった。
りぶろ (id:Hirtzia)