15年前、私は東芝の経営陣と公私両方の付き合いがありました。お世辞抜きにとても素晴らしい方々でしたし、人間的に尊敬できました。
東芝は本当に良いリーダーが居て良い企業でした。そんな東芝がこうなるとは驚きです。本当かと疑うほどです。凋落組織は凋落のリーダーを生み出し、凋落のリーダーがさらに組織を凋落させる。これはあらゆる組織が凋落する際の軌跡です。
東芝の凋落は15年前から兆候がありました。東芝のある役員から「宋さん、当社には2千人も博士がいる。人材の宝庫だからもっと伸びてもいいはず。」と言われた時、私は「人材が多すぎて倉庫になったのでは。少しでも我々のような新興企業に分流すればお互いが助かります。」と答えました。
しかし、名門企業に入った社員が中小企業に来るはずがありません。東電、東芝、シャープ、ソニーなどの名門にいる社員達は「自分が誰か」よりも「自分がどこに属するか」のほうが大切です。自分がどう生きるかではなく、どうやって無事に退職できるか、どうやって組織内のピラミッドをよじ登るかが彼らの目標です。
辞める人がいないため、東芝で中途採用の社員に会ったことがありません。話によると東電の約5万人の社員にも中途入社の社員は一人もいなかったそうです。自社しか知らない、自社にしか適応できない社員の中から誕生した社長が、大きな井の中の一番大きな蛙であり、ガラパゴス島の王者です。人脈が広いが、視野が狭い。順風に強いが、逆風に弱い。気が大きいが、肝が小さい・・・。
昨年、事故防止の義務を怠ったことで東電の旧経営陣が東京地裁に強制起訴されました。しかし、事故対応の詳細を調べてみると、事故の被害が拡大した最初の5日間に旧経営陣が頼ったのはまさに弁護士でした。どうやって事故の被害を止めるかよりも、どうやって法的リスクを減らすかを懸命に弁護士と相談していたのです。「義務の怠慢」で起訴されるとはまったくの「想定外」でしょう。
読者の皆さんはすぐ「だから東電はダメだ」とか「だから東芝が落ちた」と言うかもしれませんが、これは中小企業を含む多くの日本企業の共通点です。経営目標実現のための法律相談よりも、保身のための法律相談が多いのです。中小企業なのに海外企業との契約書の審査に数週間もかける現実をみて、私は呆れてもう彼らにビジネスを紹介する気にもなりません。
弁護士は法的リスクの有無と大小を教えてくれますが、経営を教えてはくれません。リスクを嫌う日本的経営者が弁護士や専門家に回避対策を求めているうちに、経営リスクがどんどん次のリーダーに先送りされます。このリスクのリレーがやがて限界に達して爆発してしまうのです。それが原発事故の本質であり、東芝危機の本質であり、築地市場移転問題の本質でもあります。
東京地裁が東電を「義務の怠慢」として起訴していますが、そもそも日本企業は正社員と個別に労働契約を結ばないため、義務を明確に定めていないのです。明確な契約が存在せず年収が途上国よりも低いのが日本の経営者の特徴です。無事に社長任期を終え、会長や名誉会長で長く居座ることで終身報酬を増やそうとする彼らも哀れです。
個別経営者の素質問題として東電や東芝への批判が多いのですが、これらの経営者は最近まで年金運用株の代表格であり国策と二人三脚を演じてきた名門企業のリーダー達です。彼らは決して特別に悪い人たちではありません。彼らをいくら批判しても、なぜ世界的名門企業が次々凋落するか、なぜ世界的新興企業がなかなか誕生しないかという疑問は解けません。東芝問題の裏に隠された日本企業のガラパゴス化こそ、本当の問題なのです。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/447281081
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック
http://blog.seesaa.jp/tb/447281081
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック
企業に限らず、学校も地域社会も「となりの人と比較してどうか」という日和見的な思考を変えないとリスクを先送りする結果となってしまう。
いかに生きるか、この点をもう一度日本人が見直すべき。
「東芝で中途採用の社員に会ったことがない、東電5万人の社員にも中途入社の社員が一人もいなかった」改めて聞くと異常ですね。内向きの思考体系、世間や世界と隔絶した集団が形成された理由が分かります。聞けば電通も高橋嬢はSNSに自分の置かれている状況や上司のパワハラについて何度も書いているのに社内の誰として人事部の相談部署の誰として動かず黙殺し事件後は『彼女は男にフラれて折れたんだ』と説明している由。名門と言われていた大企業の内部崩壊・意識の幼稚化は終身雇用で閉鎖的な集団とそれを率いるサラリーマン社長の経営が原因の一つなのですね。
ご無沙汰しています。
北京におじゃましたときもそんな話になりましたね。
僕も、卒業して、4つ目の組織で働いていますが、良く解ります。
ご指摘、ご提言全くその通りです。
前の組織では多くの外部の方々との「コラボ」が多かったのですが、それでも所詮「内弁慶」の集合だったのでしょう。
今回はまさに「正鵠」を得ていますね。
165kmの剛速球をストライクゾーン(日本の産業界)のど真ん中に投げたようなものです。
ただ救いは、日本電産や永守さんのような方がいることでしょう。
共感です。そのとおりと強く感じています。
弊社も大手の子会社ですが、昨今の経営層&管理者層の能力不足に将来が思いやられます。
弊社の管理者層は、親からの出向で成り立っています。強く感じるのはプロパー社員と違い、3〜4年で親組織に帰れること。良く聞くのは「何年か我慢すれば帰れる」「もう少しだと思うので、次の人に言って!」等々、帰る場所があるんです。どんな失敗をしても帰れるんです。プロパーは辞めるしかないのに、生活もかかって必死なのに!邪魔なだけです。そして、課長枠が無いと組織に課が出来ることです。
評価点をクリアしたから課長にしないと!
考え方が違うでしょ!能力も無い者が課長?本社枠が無いから子会社に出向?これって、東芝と同じ??と強く感じました。
高度成長期とは、日本がアメリカを目指してなんの迷いもなかった時代です。
「先進国」と言われる時代になると自分で目標を作らねばなりません。日本はどう考えているかを言い、実行するのが先進国です。
しかし、日本政府は安倍さんになって少しはものを言うようになりましたが、今の経営者にはそれはできません。現状維持、今まであったものを寄せ集める(別名、M&A)のが精一杯です。
でも、それは日本が教育でずーっとよい工員を育てるべく「みんな平等」「違ったことをするな」「違ったことを考えただけで村八分」して多様性を排除しまくってきた結果です。
今のいじめも大半の言い訳が「他人と違うから」です。他人と違うことが、日本では悪なのです。
今の日本で大きな会社が次々と潰れていき、物言わぬ失業者が大量に発生し、明らかに方針はおかしいのです。世界の現実は横並びは悪なのです。
にもかかわらず、麻薬のような日本は最高という気持ち悪いテレビ番組をみて、iPhoneに日本の部品が採用されたことを喜び、今日もなにも変えようとせずに節約に励み、過去の先人の遺産で生きている日本はだんだんと規模が縮むしか、現時点では考えられないです。
立派な国、立派な会社と思った時から終わりが始まるわけで、そう思った途端に守りに入る。たいした実力があるわけでもないのに、守備固めを行うヘボ野球チームと同じで、得点が出来ないのに守備。見ていてもちっとも面白くない。
この状況を防ぐには外圧、外からの人材が不可欠ではないか?そういう意味では、外国人が日本にどんどん入るのがいいのではないか?と思います。そうなれば日本はまた活性化するでしょう。観光客相手とは言え、主な駅名にローマ字、中国語(繁体字、簡体字)、ハングル表記が普及するのは悪くないと思います。