あなたは「ブランドマーケティング」と「マーケティング」の違いを、明確に説明できるだろうか?
ブランドマーケティングとマーケティングの違いを説明できなければ、例え自社にブランディングを取り入れようとしたところで、単なる「広告宣伝活動」が「ブランディング活動」と名前を変えただけで終わってしまう。結果「ブランディングとは、上手いアピールの仕方のこと」という矮小化した誤解がいつまでも残り続け、これまでと変わらない施策を行い続けてしまう。
今回は、ブランドマーケティングとマーケティングの違いについて解説する。
外資系コンサルティングファームにおけるコンサルタント経験と、広告代理店での実務経験に基づく、より実態に即した解説を目指すつもりだ。
しかし漫然と記事を読んだだけでは単にわかった気にはなるだけで、あなたや、あなたのチームの血肉とはなりにくい。
よって、これまでのあなたのマーケティング活動の「何が足りないか」、また「何を変えれば」優れたブランディング活動になるのか?という視点で読み進めて欲しい。
何度もじっくり読み込んで頂ければ、あなたのチームのブランディング活動にとって、貴重な示唆となるはずだ。
マーケティングとブランドマーケティングの定義とは?
マーケティングとブランディングの違いを解説する前に、まずは2つの定義について簡単に確認しておこう。
まずはマーケティングの定義だ。
一般的なマーケティングの定義とは?
マーケティングに関する研究は、そのベースとなっている社会学や統計学、あるいは心理学と比べて歴史が浅い。近代マーケティングの父と言われるフィリップコトラーの著書「マーケティングマネジメント」の翻訳版が日本で初めて出版されたのが、1971年だ。
まずはコトラーによるマーケティングの定義を見てみよう。
マーケティングとは、個人や集団が、製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズやウォンツを満たす社会的・管理的プロセスである。
-フィリップ・コトラー
さらに、マーケティングの先進国であるアメリカのAMA(アメリカマーケティング協会)の定義は以下の通りだ。
マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。
-アメリカマーケティング協会
両社に共通するのは「価値を創り出し(価値の創造)」「その価値を収益に変える(価値の交換)」「プロセス」であるということだ。
この2つの定義を見て、あなたはどう感じただろうか?K_birdの印象は「極めて、正しい定義である」という印象だ。「価値を生み出し、その対価を頂く」というのは、あらゆるビジネスにとって基本だからだ。
しかし、現場のリアルなマーケティングの実態は?
しかし、マーケティングのリアルな実務現場にいるk_birdにとって、多くの企業のマーケティング活動は、上記の教科書的な定義とはかなり異なる。
まずは結論から記そう。
k_birdが考える「現場の実態に基づいたマーケティングの定義」とは、以下の通りだ。
マーケティングとは、「標的」を「攻略」し、収益に変えるための「ハンティング活動」のこと。
-k_birdの現場実感に基づく定義
残念ながら、長年実務の現場を見てきて感じるのは、あたかも見込み客を「標的」とみなし、その「標的」を「攻略」するための「ハンティング活動」がマーケティングであるかのように錯覚されている実態だ。
特にWEBマーケティングの現場では、その傾向がより顕著に見られる。
WEBマーケティングでは、見込み客の行動はデータで可視化され、追いかけることができる。すると、あたかも「データ=見込み客」であるかのような錯覚が現場で生じ、そのデータの背後にある人の気持ちや感情に想いが至らなくなる。
結果「データ=標的」をひたすらデジタル広告で追いかけまわし「攻略」することが善、というマーケティング姿勢に陥りがちだ。
WEBマーケティングの世界では、デジタル広告から顧客獲得までに至る取り組みを「刈り取り施策」などと呼ぶこともある。この「刈り取り」という言葉から見てもわかる通り「見込み客=感情を持った人間」とは捉えていない。
これは、従来型のマーケティングでも同様だ。
従来型のマーケティングでは、まずは市場をセグメントし、ターゲットを設定し、ポジショニングを決めた上で4P(マーケティングミックス)に落とし込む。
k_birdが見てきた多くの実務現場でもおおよそこのステップを辿ることが多いが、残念ながらターゲットを群としての「標的」としてとらえ、その「標的」を「4Pで攻略する」という姿勢に陥りがちだ。
残念ながら、こと「マーケティング」に関して言えば、教科書的なマーケティングの定義と実態は、大きく異なっているのが現状だ。
本来、ブランドマーケティングとマーケティングの違いを明らかにするなら、学問的な定義同志を比較するべきだ。しかし、この文章を読んでいるあなたは、研究者ではなく実務に生きる人間のはずだ。
よって、ブランドマーケティングとマーケティングの違いを理解する上では「マーケティングのリアルな実態」に基づいた定義で比較をしていこう。
一般的なブランドマーケティングの定義は?
続いて「ブランドマーケティング」の定義だ。
残念ながらブランドマーケティングに関する研究は、マーケティングと比べても更に歴史が浅く、ブランドの父と言われるアーカー教授の著書「ブランドエクイティ」の翻訳版が日本で初めて出版されたのが、1994年だ。
そしてアーカー教授自身「ブランドマーケティング」に対して明確な定義をしていない。厳密に言えば定義をしているのだが「ブランディング=ブランドエクイティを創ること」という定義になってしまい、この定義を理解するには、別途「ブランドエクイティとは何か?」という解説が必要となる。
よってここでは、アメリカマーケティング協会の「ブランド」の定義をご覧頂こう。
個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合他社の商品やサービスから差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもの。
-アメリカマーケティング協会
しかし、この定義も極めてわかりづらく、しかも実態にそぐわないことは「ブランディングとは?製品・商品・ブランドの違いで丁寧に解説」で記した通りだ。
k_bird流のブランドマーケティングの定義は?
k_bird流のブランディングの定義は、以下の通りだ。
- ブランドとは、「生活者からの感情移入」が伴った商品やサービスのことを指す。
- そして「ブランディング」とは「できるだけ多くの人に」「できるだけ強い」感情移入を形創っていく取り組みを指す。
- その成果は「衝動買い頼み」を越えた「指名買い」によるロングセラーブランドだ。
-k_bird流のブランディングの定義
ぜひ、先ほどの現場の実態に即したマーケティングの定義と見比べてほしい。
マーケティングとは、見込み客を「攻略」し、収益に変えるためのハンティング活動のこと。
-長年実務の現場を見てきたk_birdの実感に基づく定義
賢明なあなたなら、大きな違いに気づいたはずだ。
現場の実態に即した「マーケティング」の定義では、物事を考える上での立脚点が「企業中心」に置かれている。
反面、k_bird流の「ブランディング」の定義では「生活者中心」に立脚点が置かれている。
ここが、マーケティングとブランドマーケティングの違いを認識する上で、大きなポイントとなる。
もしあなたが優秀なマーケティング担当者であればあるほど、あなたは一日中「商品をどう売るか?」について熟考を重ねているはずだ。
しかしそこには落とし穴がある。熟考を重ねれば重ねるほど「企業目線」に陥ってしまいがちなことだ。
しかし、一方の「生活者」の視点に立つとどうだろうか?
生活者の興味は「今よりも理想的なライフスタイルを実現すること」であり、ブランドはその生活を実現するための「名脇役の一つ」でしかない。
生活者はそれぞれ「本来なら、自分はこう在りたい」という価値観を持っている。そしてその価値観に対する深い理解を伴わない限り、生活者からの感情移入や思い入れを勝ち取る「ブランドマーケティング」を成功に導くことは難しい。
「企業中心に発想する」か「生活者中心に発想する」か?
上記の立脚点の違いこそが「ブランドマーケティング」と「マーケティング」を分ける大きな違いだ。
それでは、その「立脚点の違い」を踏まえた上で「マーケティング」と「ブランドマーケティング」の違いを、対比の形で見ていこう。
マーケティングとブランドマーケティングの7つの違い
マーケティングとブランドマーケティングの違い-1:
「発想の起点」の違い
まずはマーケティングとブランドマーケティングの「発想の起点」の違いだ。
マーケティング:
「自社の商品の特徴は何か?どの特徴を打ち出すべきか?」ブランディング:
「生活者のどのような感情を揺さぶり、どのような感情移入を形創っていくべきか?」
マーケティングでは、発想の起点が「企業目線」になっているのに対して、ブランドマーケティングでは、発想の起点が「生活者目線」になっていることにお気づき頂けただろうか?
繰り返しになるが、生活者にとってみれば主役は「自分が実現したい、より良いライフスタイル」であり、あなたの商品は生活者にとって脇役に過ぎない。
「自社の商品の特徴は何か?」は商品を主役にした発想であり、その発想のままブランドマーケティングを進めようとしても、残念ながら生活者からの感情移入を勝ち取ることはできない。
マーケティングとブランドマーケティングの違い-2:
「生活者の捉え方」の違い
続いてマーケティングとブランドマーケティングの「生活者の捉え方」の違いだ。
マーケティング:
「ほかの商品より優れていることを理解させれば、生活者は自社商品を買うものだ」ブランドディング:
「生活者は商品の優位性だけでなく、好き嫌いの直感や感情で商品を選ぶこともある」
当たり前のことだが、生活者はコンピューターではない。感情を持った人間だ。そして人間である以上、単なるスペック比較や実利的な価値だけでブランドを選んでいるわけではない。
わかりやすい例がハーレーダビッドソンだ。
ハーレーダビッドソンは、必ずしも燃費が良いとは言えない。しかも大型バイクであることから、コンパクトなバイクと比べて保管の場所を取る。更には、エンジン音も大きい上、価格も高い。単なる「スペック」や「実利的な価値」では、日本のオートバイとは比較にならない不便さだ。
そうであるにも関わらず、ハーレーダビッドソンには熱狂的なファンが存在し、そのほとんどは指名買いだ。
ある説によれば、人の行動を駆り立てるのは「感情」「損得」、そして最後が「論理」という順番だそうだ。
ハーレーダビッドソンの例は、人間が感情の生き物だということを教えてくれる。
大切なことなので繰り返すが、生活者は感情を持った人間だ。そして人間である以上、単なるスペック比較や実利的な価値だけでブランドを選んでいるわけではない。
ことブランドマーケティングにおいては「生活者は商品の優位性だけでなく、好き嫌いの直感や感情で商品を選ぶ」という認識が重要だ。
これらについては「ブランド価値とは?ブランド価値を高めるために必須の10の要素」で詳しく解説している。この解説をお読みいただければ、生活者が求めている価値は、必ずしも「実利的な価値だけではない」ことがわかるはずだ。
マーケティングとブランドマーケティングの違い-3:
「市場の捉え方」の違い
続いてマーケティングとブランドマーケティングの「市場の捉え方」の違いだ。
マーケティング:
「どこかにニーズはあるはずだ。そのニーズを競合企業よりうまく満たせば、市場シェアは上がるはずだ。」ブランディング:
「ほとんどのニーズはすでに満たされている。だから生活者本人すら自覚していない"インサイト"を発見し、より良いライフスタイル提案を通して市場そのものを創っていくべきだ」
多くの市場が成熟化している現在「どこかにニーズはあるはずだ」と考えたところで、そうそう簡単に顕在ニーズは見つからない。
仮に顕在ニーズが見つかったところで、ニーズが顕在化している以上、すぐに競争が激しくなるため、同質化と過当競争に陥りがちだ。結果、ブランドはコモディティ化し、価格競争に悩まされることになる。
ブランドマーケティングにおいて重要となるのは「生活者インサイト」だ。「生活者インサイト」とは、生活者自身も自覚しておらず、未だ顕在化していない潜在的なニーズを指す。
この「潜在ニーズ」を発見し、いち早く潜在ニーズを満たす提案ができれば、あなたのブランドはその潜在ニーズを独占した唯一無二のブランドとなる。
ことブランドマーケティングにおいては「いち早くインサイトを発見し、より良いライフスタイル提案を通して市場そのものを創りあげていく」という視点が重要だ。
マーケティングとブランドマーケティングの違い-4:
「プロモーションの捉え方」の違い
続いてマーケティングとブランドマーケティングにおける「プロモーションの捉え方」の違いだ。
マーケティング:
「なんとかして商品名を覚えさせ、商品の優位性を理解させよう。」ブランディング:
「生活者の感情の核心を突き、ブランドに対する感情移入を創りだそう。」
近年、インターネットやソーシャルメディアの普及によって、生活者が受け取る情報の量は加速度的に増えているといわれる。いわゆる「情報爆発」だ。
そのような中で商品名や商品の優位性を、いわば「暗記させる」というアプローチが難しくなっていることは想像に難くない。
一方で、これまで言及している通りブランドマーケティングとは「できるだけ多くの人に」「できるだけ強い」感情移入を形創っていく取り組みのことだ。
この2つを掛け合わせると、プロモーションの在り方も「暗記させる」というアプローチから「感情の核心を突き、感情移入を創る」というアプローチへの転換が必要となる。
マーケティングとブランドマーケティングの違い-5:
「生活者との接点」の違い
続いてマーケティングとブランドマーケティングの「生活者との接点」の違いだ。
マーケティング:
「できるだけ商品を露出させ、多くの生活者にリーチしよう。」ブランディング:
「広告だけでなく、店頭/販売スタッフ/アフターサービスなどあらゆる顧客接点で、そのブランドらしいポジティブな感情移入を創り出そう。」
「露出」は非常に重要なことだが、単なる露出だけでは、先に言及した「情報爆発」のノイズにかき消されてしまう。いわば「砂漠に水まく」状態だ。単に多くの生活者にリーチするだけでは、もはや記憶に留めてもらえない時代だ。
そのような背景の中、近年CX(カスタマーエキスペリエス)やカスタマージャーニーが注目を集めている。生活者が見込み客となり、購入、リピート、ファン化に至るまでの流れに着目し、その流れ上にある数々の接点を通してブランドへの感情移入を形創る取り組みだ。
情報過多の状況の中でブランドマーケティングを成果に導くためには、単なる「露出」で終わらない、重層的に感情移入を創る取り組みが必要となる。
マーケティングとブランドマーケティングの違い-6:
「目指すゴール」の違い
続いてマーケティングとブランドマーケティングの「目指すゴール」の違いだ。
マーケティング:
「どうすれば最高の(あるいは最安の)製品が作れるだろうか?」ブランディング:
「どうすれば、顧客にとって最愛のブランドになれるだろうか?」
「最高の製品」や「最安の製品」を目指すことは、開発者の心構えとしては素晴らしいが、大きなデメリットが存在ことも念頭に置いておきたい。
「最高の製品」や「最安の製品」は、残念ながら同一市場に一つしか存在しえない。そして競合各社が「最高」や「最安」を目指せば、商品は同質化が進む上に、その延長線上には「過剰品質」の罠が待ち受ける。
さらに致命的なのは「最高」や「最安」という考え方は「競合商品と比べた」視点であり「生活者のニーズや感情」から逆算した視点でないことだ。そこには、生活者の視点を置き去りにしたままの「企業都合」が透けて見える。
ブランディングが目指すのは、あくまで「最高」でも「最安」でもなく(もちろんあれば望ましいが)、生活者から見て感情移入が伴った「最愛」のブランドだ。
マーケティングとブランドマーケティングの違い-7:
「ビジネス成果」の違い
続いてマーケティングとブランドマーケティングの「ビジネス成果」の違いだ。
マーケティング:
「プロモーション効果による短期的な衝動買いを誘発しよう。」ブランディング:
「感情移入による、長期的な指名買いを創り出そう。」
ビジネスである以上、短期的な成果最大化は重要だ。しかし短期的な成果ばかりに目を向けるあまり、長期的な成果を犠牲にしていないだろうか?
あまりに短期的な成果ばかりに目が向くと、マーケティングはその場しのぎの自転車操業状態となる。いわば「カンフル剤を打たないと、売り上げが上がらない」という状態だ。
一方でブランディングとは、長期的に知名度を高め、より多くの人から、より強い感情移入を形創ることだ。そしてその目的は、あなたのブランドに対する「指名買い」を増やしていくことだ。
そして指名買いが増えていくと「これまでは多大な広告宣伝費を使わないと買ってもらえなかった」状態から「例え広告宣伝をしていなくても、指名で買っていただけている状態」となる。そのため「毎回、カンフル剤が必要」という状態から脱却し、安定的な売り上げと利益が得られるようになる。
市場が成熟化するなか、今後ますます市場競争は激しくなる。
ことブランドマーケティングにおいては「感情移入と長期的な指名買い」を目指すことで「新商品乱発競争」や「短期的なプロモーション競争」に左右されないロングセラーブランドを生み出すことが可能だ。
それ以外にも、ブランディングはあなたに対して様々なメリットをもたらす。もし詳しく知りたければ「ブランド戦略とは?ブランディングが生み出す10個のビジネスメリット 」を参照して欲しい。様々なメリットが理解できるはずだ。
終わりに
今回は「何が違う?マーケティングとブランドマーケティングの7つの違い」について解説した。
冒頭で説明した通り、マーケティングとブランドマーケティングの違いを理解した上で、これまでの自社のマーケティング活動の「何が足りないか」、そして「何を変えれば」優れたブランディング活動になるのか?という視点でお読みいただけたなら、きっと様々な示唆が得られたはずだ
今後も、折に触れて「ロジカルで、かつ、直感的にわかるブランディングの解説」を続けていくつもりだ。(過去記事一覧と今後の掲載予定は、こちらの記事の後半を参照)
しかし、多忙につき、このブログは不定期の更新となる。
それでも、このブログに主旨に共感し、何かしらのヒントを得たいと思ってもらえるなら、ぜひこのブログに読者登録やTwitter、Facebook登録をしてほしい。
k_birdがブログを更新した際には、あなたに通知が届くはずだ。