ドナルド・トランプ氏が大統領になってから、まだ二週間弱(今日は2月1日)。トランプ氏が当選した時点で今起きている数々の変化はある程度予測できたはず、今さらショックを受けすぎるのはナイーブだ、と自分に言い聞かせる日々が続いています。笑
それでも、私がこれまで知っていた「自由の国」があまりのスピードで変わっていくのを目の当たりにして、やっぱりどうしても衝撃を感じる。
トランプ政権の出現で、一気に流行語になったのが alternative facts(もう一つの事実)という言葉。
就任後初となる会見で、スパイサー報道官が「就任式には史上最大規模の国民が参加した」と述べ、その根拠を挙げたのがことの始まり。その時点でメディアは、「オバマ大統領の初めての就任式よりも聴衆が少なかった」と報道していたため、真逆となる発表は混乱を呼び、大きな話題となりました。その後、スパイサー報道官が証拠として挙げた根拠は間違いであったことが判明。
次の会見で指摘されると、スパイサー報道官は根拠自体に間違いがあったことは認めつつ、「Sometimes we can disagree with the facts(時として事実に賛成しないこともある)」と述べ、「事実に賛成しない」なんていう選択肢があるの・・・?とネットでも騒然となりました。
続けざまに、大統領顧問のケリーアン・コンウェイ氏がインタビューの中で、「彼はalternative facts(もう一つの事実)を提示しただけ」とスパイサー報道官を擁護し、事実とは異なる「もう一つの事実」というものが存在する、という斬新な謎コンセプトを披露。嘘も間違いも全て「もう一つの事実」と言ってしまえ、という驚きの荒技です。
「#AlternativeFacts」はツイッターでも格好のネタになっていて、
「えっ浮気なんてしてないよ #AlternativeFacts」
「全然酔っ払ってないよ、シラフだよ #AlternativeFacts」
など、おもしろツイートが日々投稿される始末。私も友人や夫と話すときにジョークとして使ってる。笑
いま日本でも話題になっている7カ国の入国禁止令も、「テロリストから国民の安全を守るため」としていますが、実際過去にアメリカ本土を攻撃したテロリストの出身地4カ国(トルコ・UAE・エジプト・サウジアラビア)は含まれていません。この肝心の4カ国は、トランプ氏が個人的にビジネス上の取引があることが指摘されています(トランプタワーとか)。
ほかにもトランプ大統領の「気候変動はうそ=環境問題なんてものはない」とか、ペンス副大統領の「同性愛は治療すれば治る」とか、もう alternative fact 祭り状態。スパイサー報道官の会見を見ていても、報道官というよりセレブのパブリシストといった感じで、真実を伝えるよりも「いかにトランプ大統領が常に正しくて最高の人気者であるか」をalternative factsを交えて(しかもなぜか一人で怒りながら)説明する、という印象。
日本の政治も他人事ではなくて、例えば1月30日の国会答弁で、共謀罪を強行採決しようとしている自民党から飛び出した「判例的な考え方」発言もまさに alternative factの一例。http://www.huffingtonpost.jp/2017/01/30/kaneda-budget-committee-of-the-upper-house-of-the-diet_n_14509326.html?ncid=tweetlnkjphpmg00000001
就任直後にトランプ大統領が発表して、めちゃくちゃ大きな話題となったのが「global gag rule」。日本ではほとんど報道されてないけど、これは1984年にレーガン大統領が制定した正式名称「Mexico City Policy」という政策方針で、アメリカが支援する海外のNGOは、中絶に関わってはいけない、という規定です。これはのちに民主党のクリントン大統領によって取り下げられ、共和党のブッシュ大統領が復活させ、民主党のオバマ大統領が取り下げ・・・とイタチごっこ式に繰り返されてきました。
トランプ大統領は共和党なので、当然復活させるだろうと想定されていましたが、今回は復活させるだけでなく、対象のNGOを大幅に拡大し、影響を受ける予算が15倍の95億ドルに膨れ上がりました。これらのNGOは、数十カ国に及ぶ途上国において、望まない妊娠をした女性や、HIV陽性の人々の医療支援を行っています。中絶に関わらないということは、現地で安全に中絶が行える病院を紹介したり、現地の危険な中絶方法によって治療が必要になった人を助けるといったことを放棄するということです。
これに従わないと、金銭的支援が断ち切られるほか、避妊用ピルやコンドームの配布中止、専門家の知識提供が停止されるなど、現地の人々が打撃を受けるほか、NGOの存続に関わる事態となります。
実際、ブッシュ大統領の任期中、アフリカのサブサハラ地域で避妊具の配布が中止されたことにより、望まない妊娠が増え、結果として逆に中絶の件数は急激に増加しました。この規定によって現地の中絶件数が減らないことは明らかなうえ、安全な病院の紹介ができなくなることで、現地の女性が危険な方法で中絶を行う確率が増加します。
Marie Stopes Internationalの試算によると、今回のトランプ大統領の決断により、今後4年間で210万件の危険な中絶が行われ、その結果2万人以上が命を落とすとされています。
この決定は、1月21日に400万人以上が参加しアメリカ史上最大のデモとなった「Women’s March」が行われた2日後に発表されました。「Women’s March」では、「安全な中絶を受ける権利」もポイントのひとつであったため、国民の声は無視された形となりました。大統領が7人の白人男性に囲まれて署名している写真が公開されると、多くの女性の身体・生命に関する重大な決定が、数名の男性だけで決められていることに対し、多くの批判が寄せられました。
ほかにもあれだけ皆が頑張って反対したダコタアクセスパイプラインをいとも簡単に承認したり、NASA含め科学界の言論を抑圧しようとしていたり、もう読んでいるだけでストレスでアイスむさぼりたくなっちゃうような事例を次から次へとスピーディーに排出してくるトランプ大統領。
弾劾でもされない限り、最低でもあと4年間はこの状態が続くわけで、ここであまりに悲観しているとこっちも続かないので、ポジティブな側面もあげてみたいと思います。
①国民総活動家化現象
これまで薄々わかっていながら、みんながなんとなく無視してきた「政府やメディアは嘘をついたり誤情報を流すものである」という事実が、ばーん!と目の前に突き出されていて、さすがに無視できない。これはリアリティチェックになって、ある意味よかったと思う。それによって、自分も政治に参加しなくてはいけない!声を上げなくてはいけない!という気運がマックスに高まっているのも、民主主義としては良いこと。
②ダメージコントロール体制
「global gag rule」に関してはオランダが「アメリカに予算を切られる分はうちが負担します!」と迅速に手を挙げてくれたり、移民&難民締め出し問題についてはカナダが「うちにおいで」と発表している。
数々の企業が、入国禁止令について政府に対する反対姿勢を表明し、個々で対策を投じて自社社員やその家族を守ろうとしている。弁護士が空港に出向いて対象となる移民を無償で助けたり、多くの国民がデモに参加して、移民の側に立っている。
ここで「政府に反抗すると今後ビジネスがやりにくいしなー」とか「私は移民じゃないから関係ないしー」とか「デモなんてやったって意味ないしー」となっちゃうと、「移民 vs その他大勢」で分断された構図になって一貫の終わりだけど、そうならずにはっきり「おかしい」と声をあげるのはやっぱりアメリカの良いところで、そこがいま力を発揮していると感じます。
③民主主義の今後を見据えた教訓
戦後時間が経ってきて油断しがちだったけど、Brexitしかりトランプしかり、「世の中一晩でひっくり返る」ということを思い出す良い機会だと思う。
日本でも安保法案や共謀罪など、その時の政権次第でどうにでも拡大解釈可能な曖昧な文面の法案がどんどん出てきています。それに対して疑問を呈すると、必ず「そこまで悪くなるわけない」とか「心配しすぎ」という人がいる。たとえ今の首相に拡大解釈の気がなかったとしても、次の首相、その次の首相がどうなるかなんて誰にもわからない。ほんの二、三世代前には第二次世界大戦に思いっきり参加してた国なんだから、自分の想像力の限界=現実の限界ではない。Brexitも「まさか離脱しないでしょ」と両サイドで(!)言っている人がいたし、トランプ大統領についても「そこまでしないでしょ」とこれまた両サイドで言われていました。
選挙で「これをやる」と言っていたら本当にやっちゃう可能性はあるよ、という、まあある意味当たり前のことや、政治家が堂々と嘘をついても責任問題に発展せずそのままズルッといっちゃうことがある、ということ、民主主義における人気投票問題や、そもそもの選挙システムの妥当性など。目が覚める要素はたくさん転がっている。
今の状態を悲観してストレスを溜めるだけではあまりに意味がないし損なので、個人的にはネコを撫でてオキシトシンを出しつつ、このカオスから人類はなにを学ぶのか、今後にどう生かすのかにフォーカスしようと思っています。
★がついた記事は無料会員限定
「文字おしゃべり」待望の第2弾を発売いたしました!
Mamiの英語勉強法を紹介した「ブリトニーに英語のテストを助けてもらってた話」や、アメリカと日本の雑誌の比較から考える「一重より二重のほうがいいって誰が決めたんだっけ問題」など、連載当時から大反響を巻き起こしたコラムを、なんと33本収録。
初めての書籍出版や結婚など、Mamiの「人生、なにが起こるかわからない」はどんどん加速。Podcastでは話せない日々の出来事や自身の思いを素直に綴るエッセイ集です。
電子書籍化を記念して、自宅で猫と遊ぶMamiの様子をはじめ、撮りおろし写真も収録。
『バイリンガルニュースMamiのもっと文字おしゃべり』
幻冬舎plusはこちら
Amazonはこちら
楽天koboはこちら
iBooksはこちら
英語で日記を書けば、言いたいことを英語で言えるようになる。
東京生まれ、東京育ち、留学経験なしの完璧バイリンガルが実践した習得法を紹介!
レベル別の英語日記サンプル、便利な表現集、英語継続のコツなど学習ページのあとに、実際に日記を書き込めるページを100ページ収録。
楽しんで続けるうちに効果を実感できる英語日記の決定版。(ポプラ社)
バイリンガルニュースのオリジナルアパレル第四弾。
ファービンクス(Furbinx)Tシャツが発売中です。
【電子書籍】
コラム『バイリンガルニュースMamiの文字おしゃべり』が、新たな書下ろしを加え、電子書籍になりました!
各エピソードの話題にちなんだMamiの考える”使える英単語”を新たに付録しました。また、英語習得・バイリンガルニュース・恋愛・仕事・家族などについての数々の質問への回答、撮り下ろしスナップ写真など、この電子書籍だけのコンテンツが盛りだくさん!
【作品情報】
書名 『バイリンガルニュースMamiの文字おしゃべり』
著者名 バイリンガルニュースMami
発売日 2014/12/25
販売先 Kindle、楽天kobo、iBooks、Reader Store、
Booklive!、honto、 Kinoppy 幻冬舎plusなど主要電子書店
価格 250円+税
下記よりお買い求めいただけます。
幻冬舎plusはこちら
Kindleはこちら
楽天koboはこちら
iBooksはこちら
『アズミ・ハルコは行方不明』刊行記念対談
山内マリコ×バイリンガルニュースMami「女の子、Yeah~~☆☆!!!!」も公開中!
コメントを書く
コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください