天皇の血統をどう守るのか。安倍晋三首相が、戦後に皇籍を離脱した旧宮家の皇籍復帰も選択肢になるという考えを示した。
一般国民として生活を送る旧宮家の子孫を再び皇族に迎え、皇位を継承してもらうという。
首相はかねて2000年以上にわたる皇位がすべて父方の血統をくむ男系によって受け継がれてきたと主張し、旧宮家復帰案を唱えてきた。しかし、多くの問題がある。
連合国軍総司令部(GHQ)による皇室財産の国庫帰属の指令もあって1947年、11宮家(51人)が皇室典範に基づき皇籍を離脱した。
旧宮家は天皇陛下と親戚関係にある。ただし、血筋をたどると共通の祖先は約600年前の室町時代にさかのぼるとされる遠い関係だ。
旧宮家の子孫には男系男子が多くいるという。しかし、離脱から70年、一般の家族のもとで育ち、皇族としての教育を受けず、皇室の生活も知らない。そうした人たちが皇位継承権を持つ地位になることが国民に受け入れられるとは思えない。
旧宮家が皇籍復帰後に生まれた子どもの世代から皇位継承の対象とする案や、いまの宮家が旧宮家から養子を受け入れる案などがあるが、それほど簡単ではないだろう。
皇籍復帰などの後に天皇に即位した例は平安時代の2例しかなく、皇室の伝統に照らしても異例だ。
国民が象徴天皇に期待するのは、自然な血統に加え、皇室の歴史や文化を継承することだろう。皇室に生まれ成長し、心構えができてこそ国民に支持されるのではないか。
なにより当事者の意思が重視されるのは当然だが、第三者の思惑で復帰したり、応じる人がだれもいなかったりすれば、皇位継承の安定性は損なわれる。
皇室典範は、女性が皇族男子と結婚する場合などを除いて、旧宮家など皇族でない民間人は皇族になれないと規定している。復帰を制度化するには根本的な法改正が必要だ。
2005年には政府の「皇室典範に関する有識者会議」が旧宮家復帰案について、国民の理解や支持が得られないなどとして「採用することは極めて困難だ」と結論付けている。
小泉内閣に提出されたこの報告書は、父方が皇族ではない女系や、女性の天皇を認めるよう求めている。
皇族の減少に対する取り組みも重要だ。12年には結婚で皇籍離脱する女性皇族が皇室にとどまることができる女性宮家の創設が野田内閣に提案された。しかし、ともに実現していない。
現実的なアプローチで検討されたこうした案に耳を傾けるべきだ。